日興コーディアルグループと米シティグループは、日興がシティの完全子会社となるために株式交換手続きを行うことになっていますが、先日の日経新聞の記事では、サブプライムローンの影響により日興の株主が株式交換に反対し、株式買取り請求を行う可能性があることが報じられていました。
今回は、株主の株式買取請求について述べたいと思います。
株主の株式買取請求は、資本多数決の原理よって決まる会社の決議のうち、会社の基礎に変更が生ずる場合に、その変更に反対した株主に投下した資金の回収をさせて、経済的救済を与えることができるようにした制度です。
株主が会社に対して株式買取請求ができる場合は、大きく分けて(1)会社の組織再編行為の場合、(2)譲渡制限付き(株式譲渡に会社の承認を必要とする)にしたり、全部取得条項付き(株主総会の決議で株式全部を会社が取得できる)にするなど株式の内容に重大な変更をする場合、ある種類株式の株主のみに損害を与える場合(会社法116条)、です。
これに対して、第三者に対して特に有利な価格で株式を発行する場合などは他の株主に損害を加える可能性があるのですが、反対した株主に買取請求権は与えられていません。
上記の決議がなされた場合、反対株主が会社に買取請求をするためには、(1)株主総会に先立って反対の通知をし、(2)株主総会で反対し、(3)一定期間に請求することが必要です。
反対株主から買取請求があった場合、会社は配当できる金額以内でしか自己株式を買取ることはできないのが原則ですが、会社の再編行為の場合には金額の制限はありません。
これは、当該再編行為を行う必要性が高いとの賛成(多数)株主の判断を尊重しつつ、反対(少数)株主の保護をはかる制度だからです。しかし、上記の会社法116条の場合には、再編行為ほどの必要性が高いとは認められないことから金額の制限があり、その金額をこえて会社が支払いをする場合には、取締役に責任が生じることがあります。
上記の手続きを踏んで反対した株主の買取請求を会社は拒むことはできず、株主と会社との間で価格の合意ができなければ、株主は裁判所に申し立てて決定してもらうこととなります。従来、反対株主の株式買取請求は、譲渡制限会社(非上場会社)でより問題となり裁判例もありますが、上場会社の場合にはこれまであまり問題が起こりませんでした。
ところが、近時では冒頭の記事のように上場会社でも問題となってきました。同様の上場会社の株式の買取価格についての紛争は、全部取得条項付き株式への変更にあたっての株式の買取りについても起こります。
平成19年4月の新聞記事ではレックスホールディングの株主が、裁判所に公正な価格決定の申立てをすることを報じています。この申立ての手続きは株式買取請求とほぼ同じです。これらの上場株式の買取価格をめぐる紛争は、M&Aが日常化し、また、市場価格に会社の主張するプレミアを乗せた価格では不満を感ずる株主が増えてきたからだと思われます。
なお、このような裁判所への株式価格の決定申立ては、会社が譲渡制限株式の譲渡承認を拒絶する場合でもでき、裁判例の多くはそのような場合です。
また、会社法によって新たにできた制度として、相続などにより譲渡制限株式を取得した者に対し当該株式を会社に売り渡すことを請求できる旨を定款で定められるようになり、今後はこのような株式の価格決定の申立ても増えてくるものと思います。