株主の代理人弁護士は株主総会に出席できるか?
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<ポイント>
◆株主総会に弁護士が代理出席できるかどうかは解釈上争われている
◆解釈上の曖昧さに留意しつつも企業は対応方針を定めておくべき

多くの会社では定款規程により株主総会の代理人資格を株主に限定しています。株主の代理は株主で、という規程です。
では、株主代理人として弁護士が株主総会に出席しようとする場合、会社側は定款規程を根拠に弁護士の出席を拒むことができるでしょうか。
経営陣と株主との間に対立があれば上場企業、非上場企業のいずれでも問題となりえます。
判例は代理人資格を株主に限定する定款規程を有効とすることでは一致していますが、この規程の例外として弁護士を代理人とすることを認めるかどうかについては判例は分かれています。

弁護士の出席を認めるべきという見解は、神戸地裁尼崎支部の平成12年3月28日判決を意識したものです。
いわゆる集中日に総会が開催されることもあり株主本人でなく代理人弁護士が出席することを株主から会社宛てに事前に連絡していたところ、会社側が弁護士の出席を認めなかったため株主側が慰謝料請求訴訟をおこしたという事案です。神戸地裁尼崎支部は、代理人が弁護士であることを総会当日に受付で確認すればよく、弁護士であれば総会がかく乱されるおそれもないのだから、弁護士の代理出席を認めなかった会社の対応は違法であるという見解を示しました。(ただし結論的には慰謝料請求までは認めていません。)
この尼崎支部判決の影響により、会社側としても弁護士の代理出席を認めておくほうが無難であるという論調が一時期は目立っていました。
しかしこの判決に対しては、総会当日に株主代理人の職業をいちいち確認していては受付が混乱するといった批判があり、また、特定の事実関係を前提とする事例判断であって一般化すべきではないという捉え方もされています。

近時では東京高裁の平成22年11月24日判決が尼崎支部判決とは別の見解を示しています。弁護士による代理出席を拒否された株主が総会決議の取消しを求めて訴訟をおこした事案です。
東京高裁は、代理人の職業を確認して「総会がかく乱されるおそれ」があるかどうかを個々に検討するのでは総会の受付事務が混乱することを指摘し、弁護士による代理出席を認めなかった会社側の対応を適法としています。(取消し請求を認めず)
とくに株主数が多い上場企業について現在はこちらの判例が参照されることが多いです。
ただし、東京高裁判決の事案では結局株主本人が総会に出席して議決行使をしており、決議取消しまで認めるべき事案でないことについては概ね見解が一致しています。この点を考慮すると東京高裁判決により解釈論の争いが完全に決着したとまでは言いきれません。

実務の傾向としては、株主数の多い企業ほど株主以外の者による代理出席を認めていないことが多いです。一方、上場企業であっても株主数がすくない企業では代理人資格について柔軟な取り扱いをしている例もみられます。
企業としては判例上は曖昧さが残ることに留意しつつも、一定の対応方針をもっておく必要があります。場当たり的な対応をして株主ごとにバラバラの取扱いをしてしまうことが最もこわいことです。