東証、西武鉄道株の上場廃止を決定

【東証、西武鉄道株の上場廃止を決定】
東京証券取引所は11月16日、西武鉄道株を12月17日に上場廃止にすると発表しました。
西武鉄道が10月13日、2004年3月末における親会社コクドの持ち株比率をそれまで43.16%としていたのを64.83%に訂正したことをきっかけに、同社が40年以上に渡り、実質はコクドなど大株主の持ち株であるにもかかわらず、元従業員などの個人名義を借りて、大株主の持ち株比率をわざと少なくして有価証券報告書に記載していることが明らかとなりました。
東証は、かような虚偽記載があったことが上場廃止基準に該当すると判断しました。
上場が廃止されても、そのこと自体が株式の価値をなくするわけではありませんが、取引所での売買ができなくなれば、保有株主は株式を売却する機会を実際上奪われてしまうので、結果的にその価値は大きく下落してしまいます。
これまで上場が廃止されたケースは経営破たんした場合などに限られており、今回のように情報開示が適切でなかったことを理由とするのは極めて異例です。
東証はルールを厳格に適用することで、市場の信頼を回復する態度に出ました。

【大株主の持ち株比率の過少記載】
それでは、このケースで、西武鉄道またはコクドの何が悪かったのでしょうか。
まず、東証は大株主上位10社など少数特定者の持ち株比率が80%(11月に75%に改正)を超える状態が1年以上続いた場合、その企業の株式を上場廃止とするとの基準を定めています。
特定の少数者の持ち株数があまりに多ければ、持ち株数の少ない株主の意見が反映される余地がなくなります。そのような状態では、公衆から広く投資を集めるための制度である証券取引所において当該株式を売買の対象とするのは不適当です。また、市場に出回る株式が少なくなれば、適正な株価形成がなされないので、このようなことを防止するためでもあります。
東証は西武鉄道がこのような基準に継続的に抵触していると判断しました。
コクドが、その保有する西武鉄道株に関し、どうして個人の名義を借りていたのかは不明な点もありますが、西武鉄道が本当は上場に適さない会社であるにもかかわらず、これを上場させることでその株式の価値を高め、コクドや西武グループの信用を高める目的があったと見られています。

【不当な買取請求】
西武鉄道が大株主比率を訂正した結果、上位10社の大株主の比率は訂正前の63.68%から88.57%(2004年3月末時点)に跳ね上がる計算となります。
ところが、コクドは、西武鉄道から株式の所有について問い合わせを受けたことから、過少記載を訂正する前に、詳しい事情を説明することなく取引先などに買取を求めました。ちなみに、西武鉄道から問い合わせをしたこと自体、総会屋事件の家宅捜索で押収された株主名簿について捜査機関から聞かれたことに答えられなかったのが動機ではないか、との報道もあります。
取引先はコクドとの関係維持のために買取要求に応じましたが、その後で過少記載問題が判明し、上場廃止に至ったため、購入企業は買い取った西武鉄道株の買戻しを請求しています。こうした購入企業は70社にのぼるとされています。

【西武グループの組織的関与の疑い】
また、東証は過少記載問題が組織的に行われたと判断しており、その根拠として、西武鉄道の株式担当課が、コクドが実質保有する株式はすべて同一の株主コードで特別に管理し、配当金もそのすべてをコクドに支払っていたことや、多数の個人の印鑑を会社で保管し、議決権行使に使用していた事実を明らかにしています。このような措置は商法が規定する株式会社のルールを著しく逸脱しています。

【有価証券報告書に虚偽の事実を記載することの意味は】
そもそも有価証券報告書は、証券取引法が上場会社に対してその提出を義務付けており、これによって投資者は投資判断に有用な情報を入手することができ、もって取引の公正さが図られることになります。
ところが、そこに嘘が書かれていたことが購入後に判明し、保有株の株価が下落したということになれば、有価証券報告書を信じて株式を購入した投資者は、本当は値打ちがない株式をだまされて買ったのと同様です。極めて長期間にわたり重大な虚偽記載があったとなれば、もってのほかということになります。

【西武鉄道の対応、東証の情報開示規制強化策】
上場廃止決定を受けて、西武鉄道は株式の流通を確保するため、ジャスダック市場への上場を目指すとしていますが、ジャスダック会長は「法令違反などの問題を解決するまでは、上場申請は受け付けられない」との考えを明らかにしています。市場で取引の対象とされるには、会社が投資対象として適格であることが大前提であり、ジャスダックの反応は当然のことと考えられます。
今回の不祥事は西武グループに抜本的な改革を迫ることとなり、結果、事業再生計画をまとめる「西武グループ経営改革委員会」が発足し、「グループ再編チーム」と、「コンプライアンス・コーポレートガバナンスチーム」に分かれて検討が始まりました。
他方、東証は、西武グループなど有価証券の虚偽記載が相次いでいることを受け、上場会社に対し会社情報を投資者へ適時適切に提供することの宣誓を求め、有価証券報告書を提出した会社代表者に、その内容に虚偽の記載がないとの認識を示す書面の提出を求めることとしました。
このような措置は証券市場への信頼を回復するための方策であり、上場企業が「社会の公器」として倫理的に行動することが企業発展の大前提であることの再認識が求められています。