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期間の定めのある賃貸借契約において、
◆賃借人からの中途解約条項がない場合には賃借人から一方的に中途解約することはできない
◆賃借人からの中途解約の場合に違約金を賃貸人に支払うという約定自体は有効
◆ただし、期間満了までの残存期間の賃料相当額を違約金とする約定は、その一部が合理的範囲を超えるものとして無効と解される可能性がある
賃貸借契約において、賃貸借の期間の定めがあり、解約権を予め留保していない場合には、期間内に一方当事者がした解約申入れは無効であり、賃貸借契約を終了させることはできません。これは期間の定めが、期間中は物件から安定して賃料収入を得られるという賃貸人の利益と、期間中は物件を確実に使用収益できるという賃借人の利益、双方の利益のためのものであるからです。
そこで、賃借人が中途解約を希望する場合には、賃貸人との合意により解約できないか検討することとなります。
さらに、事業用建物の賃貸借契約においては、賃貸借期間中の中途解約や解除の際に、期間満了までの賃料相当額を違約金として支払う旨の約定がなされることがしばしばあります。
このような違約金条項の有効性に関して参考となる裁判例を3つ紹介します。
なお、本稿では、消費者契約法の適用のない賃貸借契約を念頭に置いて解説します。
(1) 東京地裁平成8年8月22日判決
4年間の期間の定めのある賃貸借契約について、賃借人が期間満了前に解約する場合は、解約予告日の翌日より期間満了日までの賃料・共益費相当額を違約金として支払う旨の定めがあり、賃料・共益費の支払の遅滞により、約10か月経過時点で合意解約した事案です。
裁判所は、「違約金の金額が高額になると、賃借人からの解約が事実上不可能になり、経済的に弱い立場にあることが多い賃借人に著しい不利益を与えるとともに、賃貸人が早期に次の賃借人を確保した場合には事実上賃料の二重取りに近い結果になるから、諸般の事情を考慮した上で、公序良俗に反して無効と評価される部分もあるといえる」と述べた上で、本件で賃貸人が明け渡した建物について、賃貸人が「次の賃借人を確保するまでに要した期間は、実際には数か月程度であり、一年以上の期間を要したことはない」ことなどから、違約金は「一年分の賃料及び共益費相当額の限度で有効であり、その余の部分は公序良俗に反して無効と解する」と判断しました。
(2)東京地裁平成19年5月29日判決
5年間の定期借家契約について、賃借人の債務不履行による解除等の場合、賃貸借契約の残存期間の賃料合計額に相当する金員を違約金として支払う旨の特約があり、賃料滞納により、約3年3か月後に賃貸人から解除した事案です。
裁判所は、本件「違約金の額は、賃貸人が新たな賃借人を確保するために必要な合理的な期間に相当する賃料相当額を超える違約金を定めるものであり、合理的な期間の賃料相当額を超える限度では、著しく賃借人に不利益を与えるものとして、無効と解すべきである」と述べた上で、「新たな賃借人を確保するための合理的な期間は、それが診療所という限定された目的であることを考慮しても、せいぜい6か月程度と見るのが相当である」として、賃借人は賃貸人に対し、違約金として6か月分の賃料相当額の支払義務がある、と判断しました。
(3)東京地裁平成25年7月19日判決
10年間の定期借家契約について、賃借人が保証金を期限までに納めなかったとき、賃貸人は何らの通知催告も要せず直ちに本件賃貸借契約を解除することができる旨の定め、及び、賃貸借期間開始日までに前記定めにより賃貸人が本件賃貸借契約を解除した場合、賃借人は賃貸人に対し、保証金の100%相当額及び本件賃貸借契約期間に支払うべき賃料の全額を違約金として支払う旨の定めがあり、契約期間開始前の保証金不払いにより賃貸人から解除した事案です。
裁判所は、「請求額が明らかに過大かどうかを判断するに、一般に、相当程度の規模を有する店舗・事務所等の賃貸借において、賃貸人が建物賃貸借契約を解除した後に新たに賃料を得るまでに要する期間…としては6か月程度を要するものと考えられるところ、現に、本件においては、…解約日…から約5か月が経過した…頃に新たな賃借人が本件区画に入居し、原告は賃料を受領することになったから、この6か月程度の違約金の収受は相当であり、これより多額の違約金の収受も、契約自由の原則によれば、直ちに明らかに過大であるとはいえない」と述べた上で、本件における諸般の事情及び経緯を考慮すると、「本件賃貸借契約における賃貸借開始日から起算して上記6か月分の賃料相当額の5倍に当たる30か月分の賃料相当額を超える違約金額の請求は、明らかに過大であり、本件違約金条項の無効又は信義則違反に該当するものとして、許されない」と判断しました。
以上の裁判例からすると、中途解約の際の違約金の定め自体は有効であるものの、賃貸人が新賃借人を確保するための合理的な期間を考慮した上で、半年から1年を超えるような期間についての賃料相当額の違約金は、公序良俗違反として無効とする裁判例が多いように思われます。
しかし、(3)のように、諸般の事情や経緯を考慮した上で、30か月分の賃料相当額の違約金を認める裁判例もあり、注意が必要です。