新型コロナ問題のなかで株主総会をいつ開催するか?
【関連カテゴリー】

※ 2020年4月27日に執筆した内容です。その後、継続会開催時期の問題についても法務省などが新型コロナウィルスの感染拡大を考慮した解釈を示しており(後記URL)、執筆時とは前提が一部異なっていますが、そのまま掲載しています。
(ご参考)継続会についての金融庁・法務省・経産省の見解
http://www.moj.go.jp/content/001319501.pdf

<ポイント>
◆非常時にあっては定時総会の開催時期を遅らせることも選択肢
◆役員選任のために決議先行の二段階開催とする必然性はない
◆二段階開催の場合、継続会の適法性に注意が必要

新型コロナウィルスの感染拡大下で上場企業の株主総会開催が論点になっています。決算や監査が所定の時期に終わらない場合に3月決算の上場企業が例年どおり6月に定時株主総会を開催できるかどうかという問題です。
おおまかな検討のあり方としては、定時総会をまるまる後日に延期するか、あるいは決議事項と報告事項に分けて二段階で開催するか、となってきています。最終的には、計算書類作成や監査がいつ終わるか?、役員選任議案以外の決議事項がどれだけあるか?、会場への来場者数がどの程度と見込まれるか?などの個別事情により判断していく事柄ですが、参考となりそうな事項をいくつかコメントします。

まず「延期」パターンについて。
東日本大震災のときも同様でしたが、法務省は非常時には議決権行使の基準日を設定し直すことで例年と異なる時期に定時総会を開催すること、いわば延期も可能という見解を示しています。
http://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00021.html
この方策については役員の任期との関係での注意が指摘されていました。役員の任期は定時総会終結時が区切りですが、定時総会が開催されない場合、一般的には「定時総会が開催されるべき時期が経過したとき」に任期満了になると解釈されています。
この解釈は役員が不当に任期引き延しを図ることがないようにするためですが、平時を念頭におくもので、今回のような緊急事態を想定するものではありません。
そこで法務省はコロナ問題との関係では役員の任期についても平時と異なる見解を示しました。総会開催が可能になった後合理的な期間内に定時総会を開催するのであれば、その総会終結のときまで役員は任期切れにならないとされています。
http://www.moj.go.jp/hisho/kouhou/hisho06_00076.html
平時の考え方にこだわらずに妥当な解釈が示されたというべきでしょう。
このほか、配当についても考慮する必要があります。取締役会で剰余金配当を決議できる会社では定時総会は延期しつつ3月末を基準日とする配当手続きを維持することも選択肢になりえますが、総会で配当決議を行う会社では配当の基準日も設定し直すことになります。
なお、4月になり、東芝などいくつかの企業が定時総会の延期を決定しています。

次に、決議事項を先行させて後日報告事項をとりあげる「二段階」の開催について。
金融庁、証券取引所などの連絡協議会が二段階での総会開催を示唆しています。決算や監査が未了でも一旦通常どおり6月に定時総会を開催して役員選任議案などの決議を行ってしまい、後日に審議の続きを行うことを決議したうえで「継続会」で計算書類や監査結果の報告を行うというものです。
https://www.fsa.go.jp/news/r1/sonota/20200415/20200415.html
この方策については、決算や監査結果が示されないままでは経営陣に対する評価や財務状態のチェックができず、役員選任や配当などを決議してしまうのは妥当でないという指摘があります。
上記のとおり6月中の選任決議にこだわらずとも役員の任期切れの問題は回避できるため、少なくとも役員選任決議のために二段階開催を行う必然性はありません。
また、どれだけ総会運営上の注意を払うとしても、総会の準備作業や開催には感染リスクがつきまといます。会議を複数回開催すればリスクもそれだけ高まります。
そうすると、二段階開催を行うべき必要性としては、M&Aや資金調達に関連する議案、体制変更のための定款変更議案などで、しかも感染リスクを考慮してもなお重要性、緊急性が高い案件について決議を行うため、ということになると考えられます。
このほか、二段階開催については「継続会」を適法に開催できるかどうかの検討が必要です。
一般に、当初の総会期日と一体となる継続会を適法に開催するためには、当初の総会期日から近接した日(公開会社では2週間以内といわれます)に継続会を開催しなければならないと解釈されています。
継続会をどの程度の時期に開催すべきかについても、平時と異なる解釈が論理的にはありうるかもしれませんが、この点については判例や法務省の見解は不明です。法的安定性の観点から、継続会は近接した時期に開催すべきという通常の解釈を無視できません。
今の状況にあって特に監査が遅れる場合、それが2週間程度で済むでしょうか?
12月決算、会計不正が問題という個別事情がありますが、株式会社ALBERTは継続会で決算報告を行う予定であったところ、結局、継続会の開催自体を延期しました。「延期」といっても、この後さらに日数を空けて継続会を開催することの適法性には疑問があります。昨年のホシザキと同様に、結局は臨時総会を別途開催することになると思われます。
「近い時期に継続会で報告を行う」と株主へアナウンスしたものの、結局それを実行できなかったということになれば、かえって市場からの信頼を損なう懸念があります。
二段階開催については、以上のことをふまえてもなお必要というだけの事情があるか検討すべきです。
※ その後継続会に関して法務省より示された見解について冒頭の注記をご参照ください。

今後の情勢の変化もみていく必要がありますが、現時点での当職なりの整理として上記のように考えています。