平成17年6月29日に会社法が成立し、新聞の書籍広告欄にもこれを題材した本が多数見られます。当事務所でも、今まで再三にわたりその概要を紹介してきましたが、法律が成立したことにより、株式会社の設立についてもう少し詳しく紹介してみたいと思います。
株式会社の最低資本金については、平成2年に最低資本金が1000万円になるまでは特に定めがありませんでした。ただ、発起人が事実上8人必要であったことから、それに株式の最低額面を掛けた額、平成2年以前は40万円、が事実上の最低資本金額ということになっていました。
しかし、平成15年にいわゆる中小企業挑戦支援法ができ、最低資本金が1000万円以下でも株式会社の設立を認める「確認会社」の制度ができ、ベンチャー企業はこれを利用していました。
今回の会社法により最低資本金の制度はなくなり、この点は平成2年以前と同様で目新しいものではありません。しかし、すでに、額面株式の制度はなくなっている(したがって最低額面の制度もない)し、発起人は1人でも会社の設立ができるため、1人の発起人が1株を1円で発行し、これを資本金とすることでも会社の設立ができることになりました。
この制度の導入に従って、従来、設立登記の際には金融機関の保管証明書の取得が必要でしたが、もっと簡易な方法(たとえば残高証明書等)でよくなりました。これは上記の確認会社と同様です。
このように株式会社の設立が容易になりましたが、それは「確認会社」の制度と大きく変わっていないようにも見えます。しかし、「確認会社」が事業を開始し、継続していることが求められるのに対して、会社法では必ずしもそれが要求されるわけではありません。これにより、アメリカやカナダでは、株式会社の設立だけをしておいて(番号を社名とするため、よくナンバリングカンパニーといいます)、必要な場合にすぐに株式会社として事業活動ができるようにすることがひろく行われていますが、日本においてもこれが可能になりました。
平成2年以前にも40万円の資本金で株式会社を設立しておいて、後日の事業開始に備えることが可能でしたが、取締役の任期が2年であったことからその改選登記をしなければならず(これを怠ると過料の制裁があります)、煩雑であったのであまり活用されていなかったように思います。
しかし、今回、株式の譲渡に際して会社の承認が必要であることを定款で定めた会社(いわゆる株式譲渡制限会社)については、取締役、監査役の任期を定款で10年にすることができるようになりました。
つまり、会社法により、1円で会社を設立し(設立のための登録免許税等は必要です)、取締役、監査役の任期を10年間としておけば、登記の変更をすることなく10年間は事業開始の機会をうかがうことも可能になりました。
ただし、この制度が最も役に立つ場面である事後設立(設立後2年以内に一定額以上の財産を取得すること。この場合には、外部の検査役による調査が必要で、余計なコストがかかっていました)は廃止されましたので、このコストの節約という面でのメリットはなく、事後設立の際にナンバリングカンパニーが役立つということはありません。
それでも、ナンバリングカンパニーを予め設立しておくことは、急いで事業活動を行う機会が訪れた時に役に立つと言えるでしょう。