新たなインサイダー取引規制違反に注意を
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<ポイント>
◆会社分割、事業譲渡をインサイダー情報とする事案に初勧告
◆取引推奨規制違反のみの事案に初勧告、役職員に正確な知識の提供を

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2019年(令和元年)6月20日に公表しました。
この課徴金事例集によると、平成30年度(平成30年4月から平成31年3月)にインサイダー取引があったとして昨年より2件増、一昨年より20件減の23件(ただし、1事案で9件勧告のあったものもあります)、昨年より約2400万円減、一昨年より5300万円減の合計3665万円の課徴金納付命令勧告がありました。
今年のインサイダー取引規制違反は、件数は比較的少なく、課徴金額も平成23年度、24年度に次いで低水準となっています(インサイダー取引規制の概要については拙稿2011年10月1日付「インサイダー取引をさせないための社内対応」参照)。

今回の課徴金事例集にあらわれた事案の特徴としては以下の点があります。
初めて課徴金勧告の対象となったものとして会社分割、事業譲渡があります。
経済情勢の変化に伴い、今後も上場会社にとってこれらが重要事実となる事態は増えていくものと予想されます。また、平成26年に導入された情報伝達・取引推奨規制違反については、情報伝達規制違反は1事案あり、取引推奨規制違反のみ行った者に対しての勧告が初めて3件されました。
なお、今回は会社役員による違反事例はありませんでしたが、役員による情報伝達は相当数あり、また、管理職クラスに相当する社員による違反が約半数を占めています。

会社分割を重要事実とする事案は、コンビニエンスストアの経営等を行う上場会社が、大手コンビニフランチャイザーと事業統合契約をする目的で会社分割をすることを知った社員が同上場会社の株を買い付けた事案です。
事業譲渡の事案のうちの1事案は9件の勧告(対象者は9名)がされた事案です。この事案はエアバックの製造等を行う上場会社が事業譲渡した上で民事再生手続き開始申立てを行うこととしたもので、7件は事業譲渡、2件は民事再生手続開始の申立てを行うことを知りながら同社株を売り付けた事案です。
これら9名の社員は、事業譲渡や民事再生に関する準備等の作業をするにあたり知ったようですが、会社の規定に従った売却申請は行っていたようです。会社が売却許可をしたのかどうかは不明ですが、仮に売却許可があったとしてもインサイダー取引に該当することには変わりがないことは注意が必要です。

3件の取引推奨規制違反については、1件は上場会社(ホールディングカンパニー)の非上場子会社(化粧品の製造、販売をする事業会社)の役員が、親会社の自己株式の取得、配当予想の上方修正を知って、親族に買付けを推奨した事案です。
その他、上場会社(食品の宅配等を行う会社)の社員が、他社との事業提携等を行うことを知って知人に買付けを推奨した事案、公開買付けの実施を知って知人に買付けを推奨した事案があります。
いずれも、典型的な推奨規制違反といえますが、中には具体的な重要事実(公開買付けの実施)を伝えることはできないとの認識はあったものの取引推奨がインサイダー取引規制違反であることの明確な認識があったかどうか不明なものもあります。
このように、いまだに取引推奨規制について社内規定で明文化されていなかったり、社内研修が十分に行われていなかったようなものもあり、未対応の上場会社は対応を急ぐ必要があります。