インターネット通販に伴うトラブルを防止するために、経済産業省が広告メール送信の規制強化など「特定商取引法」の改正作業に乗り出した、との報道がなされました(7月29日の日経新聞朝刊)。この報道によれば、主にインターネット通販を想定した改正内容として、(1)消費者の承諾なしに販売業者が広告メールを送信することを禁止する、(2)返品ができる条件を具体的に明示するよう販売業者に義務付ける、(3)代金後払いで購入者が商品を受け取ることができる手段を用意させる、といった内容が盛り込まれるようです。今回は特定商取引法に関する近年の動向についてコメントしようと思います。
特定商取引法は、消費者保護のための法律の1つで、訪問販売・通信販売・電話勧誘販売などの取引の類型ごとに規制を定めています。例えば、インターネット通販は特定商取引法の規制対象となる通信販売にあたりますが、通信販売に関しては、広告の内容・方法に関する規制や、代金前払いの注文に応じる場合に遅滞なくその旨を注文者に書面で通知する義務などが販売業者に課されています。
なお、インターネット通販を申し込む場合、注文内容の入力を終えた後、送信前に入力内容を確認できるように画面設定されているはずですが、これも特定商取引法による規制です(インターネット通販以外の消費者向け電子取引一般に関しては別の法律が類似の規制を定めています)。インターネットでの取引の特徴(誤送信のおそれ)に着目した規制であり、新しい取引形態の普及に対応して法規制が図られた一例といえます。
今回報道された上記の改正内容も、インターネット通販に関するトラブルが頻発しているという社会情勢に対応しようというものです。
現在の特定商取引法では、通信販売や訪問販売等に関する規制は、商品やサービスの内容を問わずに適用されるわけではなく、政府が指定した商品やサービスに関する取引のみが規制対象とされています。この「指定商品・指定役務制度」も転換期にさしかかっています。
悪質な業者は、規制対象として指定されていない商品やサービスを選び出して販売し、トラブルの頻発を見かねて政府が当該商品・サービスを規制対象に追加すると、業者はまた別の商品・サービスを選び出して販売する、といった「いたちごっこ」が繰り返されてきました。このため、「指定商品・指定役務制度」を廃止して、原則全ての商品・サービスについて特定商取引法による規制対象に含め、他の法律により消費者保護が図られている場合のみ特定商取引法の適用除外とするべきだ、などの意見が出てきています。最近も、悪質な訪問販売が問題視されるようになった味噌・しょうゆなどの調味料や、いわゆる「ロコ・ロンドン取引」が規制対象に追加されましたが、経済産業大臣の諮問を受けた消費経済審議会の検討過程において、上記と同趣旨のコメントがなされています。
これらの検討事項のほか、特定商取引法違反の行為をやめるよう消費者団体が業者に対して請求できるようにする制度も導入に向けて検討されています(すでに消費者契約法について同様の制度が今年の6月に施行されました)。
例えばインターネットでの迷惑メール送信を考えてみても、同様の被害を受けている人がかなり多数いるでしょうから、消費者個人の権利行使だけでなく、消費者団体による権利行使を認めて消費者全体の利益を図ることには合理性がありそうです。
特定商取引法に関するごく最近の動向だけ見ても上記のとおり改正が検討されているポイントが複数あり、技術の進歩、商品やサービスの多様化を、弊害防止という別の観点から感じることができます。実際に改正がなされた際には、また改めて内容をご紹介しようと思います。