<ポイント>
◆改正公益通報保護法案が国会で審議中
◆公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対して刑罰による制裁が導入
公益通報者保護法は2006年4月1日に施行された後、公益通報者保護をより強化して実効性を上げるために、2020年6月12日に改正公益通報者保護法が公布され、2022年6月1日に施行されました。
ただ、公益通報をしたことを理由とする公益通報者に対する不利益な取扱いの是正に関する措置や民事訴訟における立証責任のあり方等については、改正後の法の施行状況を勘案し、 検討を加え、必要な措置を講ずることとされました。
その後、消費者庁は、2023年11月に常時使用する従業員が3名以上の事業者(公的機関を含む)に勤務する全国の15から79歳の就業者(有効回答1万人)を対象に内部通報制度に関する意識調査を行い、その結果を2024年2月29日に公表しました。これは、2016年に行われたのと同様の調査です。
その調査は、勤務先で重大な法令違反を知った場合の通報意欲など14の調査項目にわたって行われました。その結果、一定数の者が、通報者が誰かがわかり上司や同僚等に漏れるおそれがある、通報により不利益な取扱いをうけるおそれがあると考えており、また調査対象者の過半数が通報を理由とする不利益な取扱い禁止を知らないことがわかりました。
そして、改正後の公益通報者保護法の施行状況を踏まえた課題等について検討を行うため、2024年5月7日から公益通報者保護制度検討会が9回にわたって開かれ、報告書が提出されました。
報告書では、事業者における体制整備義務の履行の徹底や実効性向上を図ること、公益通報を理由とする不利益な取扱いを抑止し、救済措置を強化すること等が提言されました。
その提言もふまえて、2025年3月4日に「公益通報者保護法の一部を改正する法律案」が閣議決定され、現在開会中の第217回国会に提出されました。
以下、法案の概略を述べます。
この改正法案の提出理由からは、公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止が重視されていることがわかりますが、それを含めて、改正法案では①事業者が公益通報に適切に対応するための体制整備の徹底と実効性の向上、②公益通報者の範囲拡大、③公益通報を阻害する要因への対処、④公益通報を理由とする不利益な取扱いの抑止・救済を強化するための措置を講じています。
①については、現行法では公益通報体制整備義務のみが明示されていましたが、これに加えて労働者等に対する周知義務が明示されるようになりました。2021年3月に出された指針でも、内部通報制度の教育・周知が記載されていますが、法律に明示することとしたものです。
②については、会社と業務委託関係にあるフリーランス及び契約終了後1年位内のフリーランスが追加され、フリーランスも後述する公益通報を理由とする不利益取扱の禁止の対象となりました。いわゆるフリーランス新法の制定・施行に伴うものです。
③については、公益通報者を特定することを目的とする行為をすることを禁止することや公益通報を妨げる行為をすることを禁止しました。
事業者内で公益通報者の探索行為が行われることは、公益通報者自身が脅威に感じることはもちろん、公益通報を行うことを検討している他の労働者を萎縮させるなどの悪影響があり、公益通報を躊躇する要因になるためです。
ただ、これに違反した場合の行政罰、刑事罰については見送られました。不利益な取扱いを伴わない探索行為自体が、罰則に値する反社会性の高い行為とまでは言えないこと等が理由とされています。私見ですが、探索後に通報者に不利益取扱いを行った場合に刑事罰を課することで足りると考えうるかもしれません。
④については、公益通報後1年以内の解雇又は懲戒は公益通報を理由としてされたものと推定することとしました。外部(マスコミ等)への公益通報があったことを知って解雇等を行った場合には、会社が知った日から1年位内です。
この「推定する」というのは、たとえば、解雇された通報者が会社を相手に解雇無効の訴訟を起こしたとき、通常の民事訴訟の考え方からすれば、通報者(原告)側で通報が解雇の原因であることを立証する必要がありますが、この規定によって、逆に会社側で通報が原因でないことを立証する必要があるということです。
さらに、改正法案では、公益通報を理由として解雇又は懲戒をした者に対して、6月以下の拘禁刑又は30万円以下の罰金、もしくはその両方を課することになり、ついに刑罰による制裁が導入されました。なお、法人に対する法定刑を3000万円以下の罰金です。