<ポイント>
◆懲戒処分は就業規則で定める必要がある
◆懲戒処分の種類はひととおり定めておいたほうがよい。
◆就業規則に記載があるだけでなく事案の軽重に応じた処分を行う必要。
弁護士としての業務を行うなかで、よくご相談を受けるのが、これこれの事態が発生したが、このような事態を発生させた従業員についてどのような懲戒処分をすることが妥当か、というものです。
今回は、懲戒処分の種類と懲戒処分決定にあたっての注意点について説明します。
懲戒処分とは、企業秩序に違反した従業員の行為に対する制裁であり、使用者が就業規則や(就業規則の一部としての)賞罰規定などのルールに基づき行うものです。
判例上、懲戒処分は、使用者が本来的に有する企業秩序定立権の一環ではあるものの、就業規則に明記して初めて行使できるものとされています。
通常、就業規則には以下のような懲戒処分が定められています。
なお、各処分について始末書をとる就業規則もあるなど、その詳細は就業規則によって若干異なりますが、一般的なものを記載します。
【譴責】 始末書をとって、将来を戒める。
【減給】 賃金を減ずる。この場合、減給の額は1事案について平均賃金の1日分の半額、複数事案に対しては、減給総額が当該賃金
支払い期間における賃金総額の10分の1を超えないものとしなければならない。
【出勤停止】 一定期間を定めて出勤を停止する。その期間の賃金は支払わない。
【降格】 職務を解任もしくは引き下げ、または職能資格制度上の資格・等級を引き下げる。
【諭旨解雇】 懲戒解雇相当の事由がある場合で本人に反省が認められるときに、本人に説諭して自主退職の扱いをもって退職させる。
状況を勘案して退職金の全部または一部を支給しないこともある。
【懲戒解雇】 懲戒処分として即時解雇する。退職金の全部または一部を支給しないことがある。
ここではよくある例をご説明しましたが、会社によっては、降格や出勤停止の定めがなかったりすることがあります。
この場合、就業規則に定めのない種類の処分はできません。
事案に応じて柔軟な処分をするためには、上記のような処分は定めておいたほうが望ましいといえます。
また、一つの事柄について処分を2回することはできませんので、例えば出勤停止の後に降格の処分をすることはできません。調査などのために会社に来させることが適当でない場合は、有給での自宅待機をさせたうえで、懲戒処分をしなければなりません。
就業規則には、通常、懲戒処分全体について、あるいは個々の処分の種類ごとに懲戒の対象となる行為を記載します。
ただ、注意すべきなのは、就業規則に記載さえすればその処分が可能というわけではないことです。就業規則にどのような行為が懲戒処分の対象となるかを記載してあるのは、処分をするための必要条件ではあるけれども、十分条件ではないということです。
例えば、懲戒解雇のような最も重い処分をするためには、これまでの勤務に関わらず社会人としての地位を剥奪するほどの強い違法性なり不適切さがある行為がなければなりません。
行き過ぎた処分は懲戒権の濫用として無効となることがあります。
具体的には、懲戒解雇事由として、「職場においてセクシャルハラスメントを行い業務に支障をきたした場合」という定めをし、形式的にそれに当てはまる行為があったからといって、すぐに懲戒解雇が可能というわけではありません。
問題とされる行為の対応や被害、業務に与えた支障の程度だけでなく、企業の業務内容、その処分を受ける者の社内での立場やその企業の業態などによって、懲戒処分が有効となるかどうかが決まるのです。
その当事者が高い地位についていたり、人を指導する立場である場合や、社会的影響力が強い企業であったり強い職業倫理が求められる場合などは、事案の重大性に比べて重い処分をすることが許容されやすいと言えます。
処分の決定にあたってはいろいろな要素を考慮せざるをえず、個々の事案については、就業規則に照らしつつ妥当な処分を決定するほかありません。
我田引水になって恐縮ですが、日頃から顧問弁護士に就業規則を預けるなどしておいて、何かあったら妥当な処分内容について相談されることをおすすめします。