<ポイント>
◆名誉棄損になる可能性がある点に注意
◆氏名の公表は特に慎重に判断を
◆社内公表については就業規則等への記載を
従業員が何等かの問題行動を起こし会社が懲戒処分を行う場合に、その事実を社内で公表することがあります。
その目的としては、従業員の自覚を促して同様の不祥事の再発予防をすることや、社内の規律維持などがあげられます。
ただ、懲戒処分の公表が名誉棄損になる可能性があるので、その点に注意が必要です。
懲戒処分を受けたという事実はその人にとって社会的評価を低下させるものであるため、原則として名誉を棄損することになります。
場合によっては民事上の損害賠償責任を負うほか、刑法上の名誉棄損罪に該当します。
ただ、刑法上、「公共の利害に関する事実に係り、かつ、その目的が専ら公益を図ることにあったと認める場合には、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときはこれを罰しない」とされています。
その観点から、懲戒処分を公表する場合の内容は、なるべく簡潔な客観的事実を、社内の規律維持や再発防止の観点から必要な範囲にとどめる必要があります。
ここで問題となるのは、被処分者の氏名の公表についてどう考えるかですが、懲戒処分の社内公表の目的が社内の規律維持や再発防止にあることや、氏名を公表された場合には被処分者の不利益が格段に増すことを考えると、なるべく被処分者の氏名を公表することは避けるべきと考えます。
とはいえ、被処分者が今後も会社にとって不利益となる同種の行為をする可能性が高い場合などには、氏名の公表もやむを得ない場合があるとは思います。
その場合も、本当に個別の関係者への通知では足りずに社内全体に公表する必要があるのかを慎重に検討する必要があると考えます。
また、公表方法については、社内掲示、社内ネットワークなどでの掲示などの方法が考えられますが、社外の目に触れないような配慮が必要です。
なお、懲戒処分の公表については、労働基準法上、就業規則の相対的記載事項には含まれておらず、就業規則への記載が必要との明文の定めはありませんが、従業員の重大な利害に関することですので、就業規則において「懲戒処分についてはその事案の性質や重大性等に鑑みその内容や氏名について公表することがある」旨を定めておく必要があると考えます。
また、一定以上の処分についてのみ公表するという定め方もあると思いますが、その場合は、「会社の秘密保持やハラスメント事案の被害者のプライバシー保護の観点等から、その影響を判断して公表しないことがある」旨も定めておくべきでしょう。