合併など企業の組織再編に関する案件では、多くの場合、クライアントの方から「できるだけ早期に手続きを完了させたい」というご要望を受けます。できるだけスケジュールを前倒しにして早期に合併を行うにはどうすればよいでしょうか。
合併について会社法が求める手続のうち、合併の効力発生に関係するものをとりあげると次のとおりです。ひとまずオーソドックスな順序でならべています。
(1)合併契約書に調印
(2)基準日を設定(臨時総会の場合)・・・基準日の2週間前までに公告
(3)株主あてに招集通知を発送・・・(4)の2週間(非公開会社では1週間)前までに
(4)株主総会で合併契約書につき承認決議
(5)債権者保護手続の開始(公告と債権者への通知)・・・(8)の1か月以上前までに
(6)合併で消滅する会社につき株券提出手続の開始(公告と株主への通知)・・・(8)の1か月以上前までに
(7)合併に関する公告または株主宛て通知・・・(8)の20日前までに
※反対株主が株式買取請求権を行使できることを知らせる趣旨
(8)合併の効力発生
手続の簡略化について考えます。まず、資本関係や合併による会社への影響を考慮して株主総会決議が不要とされている場合があります(いわゆる略式合併や簡易合併)。これらにより、(2)(3)(4)を省略できます。この場合は、(1)の合併契約調印の直後に(5)(6)(7)を行い、(8)の効力発生となるまでの期間は約1か月ですみます。
なお、(5)(6)(7)のため官報や日刊紙に公告掲載の申込を行ってから、実際に掲載されるまでにタイムラグを生じます。合併契約調印の直後に公告を行うためには、事前の手配が必要です。
では、簡易合併や略式合併として株主総会を省略できない場合は、効力発生までの期間を短縮できないでしょうか。実は必ずしもそうではありません。
上記では、(4)の株主総会の後に(5)(6)(7)を位置づけています。しかし、(5)(6)(7)を前倒しにして、(4)の株主総会より前に実施してしまうことが可能です。
具体的には、(3)の株主総会招集と同じタイミングで、株主との関係では(6)(7)も実施します。株主総会の招集通知の記載に工夫をして、1通の書類で3種類の通知を兼ねることもできます。また、同じタイミングで、債権者との関係では(5)を行います。
こうすることで、(3)の株主総会招集から(4)の株主総会を経て(8)の効力発生にいたるまでを、約1か月間に短縮できます。この場合も、公告を実施するときにロスを生じないように事前に手配しておくべきことは上記同様です。
上記では、単純化するために、会社法が求める手続だけに限定して考えてみました。実際には会社法以外の観点もふまえてスケジュールを設定しなければいけません。たとえば、労働組合・従業員との協議をいつ行うか、などです。
また、独占禁止法上、合併の効力発生日の30日前までに公取委への届出が必要となる場合があります。微妙なケースでは事前相談を行うために日数を要します。
金融商品取引法や証券取引所のルールも考える必要があります。上場企業が株主総会で合併の承認決議を行ったことが上場廃止原因にあたる場合、投資家保護のために株主総会決議後も、一定期間(多くは1か月)証券取引市場での売買が継続(いわゆる整理売買)されることになっています。この整理売買の間は合併を効力発生させることができませんから、結局、前倒しによる日程短縮を行うことはできません。
このように、最短スケジュールでの合併ができない場合もありますが、例えば、親子会社間での合併など、グループ企業内での再編であれば、比較的短縮スケジュールを組みやすいといえます。
当事務所では、組織再編の目的、株主構成、企業の規模などを考えて、スケジュール面を含めた最適なスキームを検討いたしますので、ご相談ください。