従業員の退職後の競業避止契約について
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【転職制限―競業避止義務について】
経営者にとって、従業員が退職する場合に、その従業員に同業他社に就職されたり、自分で似たような事業をおこしたりされて、自社のノウハウや顧客を奪われる、というのは避けたい事態です。
それを避けるため、従業員との間で、退職後競業したり同業他社に就職したりすることを禁じて、それに違反した場合の損害賠償義務を定めたり、退職金支払の条件として、退職後競業をしたり同業他社に就職しないことを契約(競業避止契約)する場合があります。
しかし、従業員の立場にたって考えてみれば、今後は経験のない仕事しかできない、というのではあまりに酷です。
このような定めは有効なのでしょうか。

【裁判例】
裁判例では、以下のような基準に基づいて判断されています。
競業避止の特約は、労働者から生計の途を奪い、その生存を脅かすおそれがあると同時に、職業選択の自由を制限するから、特約の締結に合理的な事情がないときは、公序良俗に反し無効である。
しかし、その会社だけが持つ特殊な知識は、一種の財産であり営業上の秘密として保護されるべき利益である。そのため、一定の範囲において労働者の競業を禁ずる特約を結ぶことは合理性がある。
競業制限の合理的範囲を確定するにあたっては、制限の期間、場所的範囲、制限の対象となる職種の範囲、代償の有無等について、使用者の利益、労働者の不利益を考えて慎重に検討する必要がある。

【どのような定めをするべきか】
では、経営者としてはどのような定めをすべきでしょうか。
まず、制限の期間はできるだけ短くすることが望ましいと言えます。
2年とか3年という期間であれば、競業の制限が認められているケースがあります。
また、退職者が担当していた既存の顧客を奪われることが心配な場合など、地域の制限をすることで会社の利益をある程度護りうるのであれば、全国での就職等を制限するのではなく、地域を限定して制限をすることが望ましいと言えます。
退職者が元の会社の顧客を奪うことまで許容されるわけではなく、そのために最低限必要なガードをすることは合理性があると考えられるからです。
一般に、退職者が特殊な秘密に関知しうる重要な地位にあった場合には、競業避止の定めが許容されやすくなり、単純作業であったりとか給与面等の処遇が悪ければ競業避止の定めは許容されにくくなります。
さらに、競業避止の代償措置を取っていれば、その定めが有効とされる場合が多くなります。
結局、これら全ての事情を総合して有効性が決まりますので、経営者側としては、やみくもに厳しいものにするのではなく、従業員の職業選択の自由に十分配慮して、必要最低限の制限をし、それでもまだ酷なようであれば、金銭支払いなどの代償措置を取るべきです。

また、競業避止契約締結の時期は、雇用契約の時だけでなく、退職時にも重ねて契約することが望ましいといえます。