<ポイント>
◆会社補償に関する契約の指針が明確に
◆D&O保険の特約部分の保険料の会社負担が可能に
◆株式を使った報酬については税務を含めた手当が必要
2015年7月4日の日経新聞で政府は企業の役員が業務上の賠償責任を負った際に、訴訟費用や賠償金を会社が補償することを認める新たな指針をまとめるとの記事が載っていました。
また、同月23日の日経新聞で企業の役員報酬について、固定報酬から株式を使った報酬制度への移行を促すための指針をつくるとの記事が載っていました。
そして、同月24日に通産省のコーポレート・ガバナンス・システムの在り方に関する研究会から「コーポレート・ガバナンスの実践~企業価値向上に向けたインセンティブと改革」との題でこれらの件を含めた報告が発表されました。
会社補償については、事前の補償契約の締結を中心に述べられており、その手続きとして取締役会決議か社外取締役の関与、すなわち社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意を得ることまたは社外取締役全員の同意を得ることが必要としています。
補償契約による補償の対象として、損害賠償金については第三者に対するもののみであり会社に対するものは除かれています。これは、会社に対する損害賠償金の補償を認めると、会社法の責任減免規定によらずに実質的に責任の減免を認めることになるため問題があると考えられるからです。
しかし、争訟費用については、会社に対する責任に関する場合を含むことができます。これは、争訟費用の会社負担を認めても直接には役員責任の減免にはならないからと思われます。
役員に故意または重過失のある場合には会社補償は認められないとされています。
補償契約としては、定められた要件を満たした場合に、補償しなければならないというタイプと上記補償契約と同じ手続きで、別途補償を行うかどうかをその都度判断するタイプが示されています。
後者の方がより慎重な判断がされることになりますが、役員としては補償があるかどうかが不安定となり、リスクが適度に軽減されて憂いなく職務執行できるとの補償契約の目的が減殺される可能性があります。
D&O保険では第三者に対する損害賠償義務を対象とした基本契約部分と株主代表訴訟等を対象とした特約部分があります。
基本契約部分の保険料は会社が負担し、上記特約部分の保険料は役員負担とすることが通常です(拙稿「進化するD&O保険(会社役員賠償責任保険)」をご参照下さい。)
この特約部分の保険料についても、上記の保証契約の締結と同様に取締役会決議か社外取締役の関与、すなわち社外取締役が過半数の構成員である任意の委員会の同意を得ることまたは社外取締役全員の同意を得ることにより、会社が負担することができるとしています。
これは今までの実務を大きく方向転換させるもので、多くの会社が取り入れるものと予想されます。
株式を使った報酬制度としてガイドラインが考えているのは、概略以下の方法です。
会社は役員に対して業績等に連動した金銭報酬債権を付与して、それを現物出資財産として払い込ませて株式を発行する、または、役員付与された金銭報酬債権を現物出資財産として株式を発行するが、業績に応じた一定期間は株式の譲渡を制限する(一定期間経過後も譲渡制限が解除されなければ会社は無償で株式を取得する)方法です。
譲渡制限を付ける方法として種類株式を利用する方法と会社との契約により譲渡制限を付する方法が提案されています。
ただ、いずれにしても税制上の手当の必要性も指摘されており、それを含めた制度の整備が必要であるとされています。
このようにガイドラインで提案されている方法の普及は未知数であり、すでにあるいわゆる1円ストックオプションとか有償ストックオプション(拙稿「有償ストック・オプションについて」及び「株式報酬型ストック・オプションについて」ご参照)とかと較べてどのようなメリットがあるのかもこれから明らかにされるのだろうと思われます。