<ポイント>
◆建設工事の請負契約には建設業法が適用される
◆下請業者保護のための一連の規定がある
◆国土交通省は「駆け込みホットライン」を開設している
独占禁止法上の「優越的地位の濫用」規制、「取引上の地位の不当利用」規制の特別立法として、下請代金支払遅延等防止法(下請法)があります。
下請代金の不当な減額など下請法違反のおそれがあるとして公正取引委員会から指導、勧告がなされるケースが近年増えています。
ただ、この下請法は製造委託など委託取引に限って適用されるものなので、建設工事の請負契約に適用されるものではありません。
建設工事の請負契約には「建設業法」が適用されます。建設業法には下請法と似た内容の規定があります。
主には概ね次のような内容です。
〇 建設工事の請負契約の当事者は工事内容や請負代金の額などを書面に記載して、記名押印などして互いに交付しなければならない(建設業法19条)
〇 注文者は、自己の取引上の地位を不当に利用して、その建設工事を施工するため通常必要と認められる原価に満たない金額を請負代金額とする請負契約を締結してはならない(建設業法19条の3)
〇 注文者は、請負契約締結後、自己の取引上の地位を不当に利用して、その建設工事の資材や機械器具、またはこれらの購入先を指定し、請負人に購入させて、その利益を害してはならない(建設業法19条の4)
〇 元請負人は、注文者から支払を受けたときは、下請人に対し、下請工事に相応する下請金額について1か月以内かつできる限り短い期間内に支払わなければならない(建設業法24条の3・1項)。
〇 前払金を受けたときも、下請人に、資材の購入費など必要な費用を前払金として支払うよう適切な配慮をしなければならない(建設業法24条の3・2項)。
〇 元請負人が、下請負人から、下請工事が完成したとの通知を受けたときは、通知を受けた日から20日以内かつできる限り短い期間内に、検査を完了しなければならない(建設業法24条の4・1項)。
〇 元請負人は、その検査によって完成が確認できたときは、直ちにその目的物の引渡しを受けなければならない(契約上の完成時期から20日以内の日と特約で定めた場合は、直ちにでなくてもよい(建設業法24条の4・2項)。
〇 4500万円以上(※)の下請工事の契約をすることが許された特定建設業者が注文者となった場合、下請代金の支払代金は、下請負人が引渡しの申出を受けた日から50日以内かつ、できる限り短い期間内に定められなければならない(※ 元請けした工事について数社と下請工事契約を締結する場合の総額。下請工事契約1件でいえば、3000万円以上)(建設業法24条の5・1項。なお、そもそも定めがない場合、または、これに違反した定めがなされた場合も、引渡しの申出から50日が支払期日となる。建設業法24条の5・2項)。
〇 特定建設業者は、下請代金支払につき、割引困難な手形を交付してはならない(建設業法24条の5・3項)。
〇 特定建設業者は、下請代金を支払期日までに支払わなければならない。もし支払わなければ、引渡しの申出の日から年14.6%の遅延利息を支払わなければならない(建設業法24条の5・4項。建設業法施行規則14条)。
これらの建設業法違反(下請業者との関係に限りませんが)に対応するため、国土交通省は平成19年4月に「建設業法遵守推進本部」を各地方整備局等の設置しました。そして、同推進本部は、建設業法違反通報窓口として「駆け込みホットライン」を設けています。
国土交通省はまた平成23年8月「発注者・受注者間における建設業法遵守ガイドライン」を定めて請負契約の適正化を図っています。
駆け込みホットラインには、平成23年度の1年間で1501件の電話(またはFAX、メール)が寄せられ、うち327件について法令違反の疑いがある情報が受けつけられたとのことです。情報をきっかけに推進本部が立入検査等を行った回数は、報告徴収等も含めて、1085件とのこと。これに対して、各地方整備局等は、許可取消4件、営業停止17件、指示7件、勧告365件が行われたとのことです(これらの数値は平成24年6月4日付け国土交通省土地・建設産業局建設業課の発表によります)。
推進本部では駆け込みホットラインへの通報者には不利益が生じないよう十分注意して情報を取り扱うとして、通報の促進を図っています。下請業者とすれば、このような制度を利用することで、自らの権利を守ることができるかもしれません。元請業者としても、建設業法の上記のような内容が現場で守られているかどうかは常時チェックしておく必要があります。そうでなければ、駆け込みホットラインへの通報を機に行政上の指導、最悪、許可取り消し、営業停止などの厳しい処分がなされることに留意しておく必要があります。