<ポイント>
◆賃貸借契約の契約日が平成4年8月1日より前か、同日以降かが重要
◆賃借人の造作の付加は不利益がない限り賃貸人は拒否できないと解せられる
建物の賃貸借が終了するにあたり、賃貸人と賃借人との間で、賃借人が取り付けた「造作」(ぞうさく)を賃貸人が買い取らなければならないのかがトラブルになることがあります。
賃借人が建物に取り付けたエアコンや、賃借人が飲食店用に居抜きで借りた建物に新たに取り付けたダクトなどの設備などが「造作」に当たります。法律的に定義すれば「建物から取り外すことが物理的にも経済的にも容易であり、建物の利便性を向上させるものであって、賃借人が所有するもの」をいいます。
賃借人とすれば、建物を明渡す際、造作を取り外して持っていきたくないとき、賃借人に買い取ってもらえれば好都合です。
他方で、賃貸人からすれば、そんなモノ、代金を払ってまで要らないと考えることもあるでしょう。
ここではエアコンを例に、賃貸借契約終了に際しその造作を賃貸人が買い取らなければならないかを判断する基準を説明します。
まずはそのエアコンを賃借人が建物に取り付けることについて賃貸人が同意したか否かが基準となります。その同意は取り付けの前後を問いません。
そもそも賃貸人が取り付けに同意していなければ、つまり賃借人が賃貸人に無断で取り付けたのであれば、賃貸人がこれを買い取る必要はありません。
他方、賃貸人が取り付けに同意していれば、賃貸人が買い取らなければならない可能性が出てきて、以下の基準に照らして判断することになります。
次に賃貸借契約書の確認が重要となります。
まずは「賃借人が賃貸人の同意を得て造作を取り付けたとしても、賃借人は、造作を買い取るよう賃貸人に請求できない」との特約、すなわち賃借人の造作買取請求権を排除する特約があるか否かを確認しなければなりません。
この特約がなければ、賃借人は賃貸人にエアコンを買い取るよう請求できます。賃貸人は賃借人にエアコンの代金を払わなければなりません。
特約がある場合は、その特約の締結日(通常は賃貸借契約締結日と同じでしょうが、特約が追加された場合は、その特約独自の締結日となります)がいつかが重要となります。
平成4年8月1日に施行された借地借家法の前身の法律である(旧)借家法では造作買取請求権を排除する特約は無効とされていたので、平成4年8月1日の前か後(正確には同日以後)かで結論が異なります。
特約の締結日が平成4年8月1日より前ならば、借家法により特約は無効となり、その結果、賃借人は賃貸人にエアコンを買い取るよう請求できます。
逆に、特約の締結日が平成4年8月1日以降ならば、借地借家法に照らしてもこの特約は有効ですので、特約の効力により賃借人は賃貸人に造作を買い取るよう請求することはできなくなります。
このように、現在締結される、造作買取請求権を排除する特約は有効ですので、賃貸人は賃借人がエアコンその他の造作を取り付けても不利益を受けないのであれば、取り付け自体に同意しないことは許されないと考えられます。造作を買い取りたくなければ、事前に特約で賃借人の造作買取請求権を排除しておけばよいからです。
なお、最近の賃貸マンションでは、エアコンがもともと備え付けられていることが多く、賃貸人が取り付けたエアコンが故障した場合に賃貸人と賃借人のどちらが修理しなければならないかという相談を受けることがあります。
この件についても、賃貸借契約書の確認が重要となります。特約がなければ民法に従って賃貸人が修繕する義務を負いますし、特約があればその特約に従うことになります。