2008年1月に、日本マクドナルドに対する現職店長からの残業代支払い訴訟について、店長の請求を認める判決が言い渡されました。
日本マクドナルドは、この判決以降、現在の店長に対する給与体系について社会的な批判を受け、また同社が非常に著名な企業であるためなにかと引き合いに出されたり、注目を浴びたりすることから、制度見直しを選択したとのことです。
労働基準法41条2号により、「監督もしくは管理の地位にある者(管理監督者)」については、労働時間や休憩、残業手当等につき、同法の規制の対象外になり、残業代を支払う必要がない、とされており、日本マクドナルドの店長が同法が定める管理監督者にあたるのかが裁判上の争点でした。
管理監督者といえるかどうかは、(1)労務管理などで経営側と一体の立場にあるか、(2)労働基準法所定の労働時間等の枠を超えて事業活動することを要請されてもやむを得ないものといえるような重要な職務と権限を付与されているか、(3)労働時間等に関する法の適用を除外されても保護に欠けるところがないといえる程度に、賃金等の待遇やその勤務態様において、他の一般労働者に比べて優遇措置が取られているかどうか、などの基準によって判断されます。
判決はこの判断基準にしたがい、日本マクドナルドの店長は管理監督者に当たらないとしたのです。
日本マクドナルドはこの判決に対し、控訴しましたが、この判決に対する評釈、論評が多数なされ、それに伴い労働基準法41条2号の管理監督者の定義についての論争も活発化し、原審の判断を正当とする論調が多数を占めました。
これらの流れのなかで、日本マクドナルドは、判決を受けてなお店長に残業代を支払っていないことが「企業の信頼を落としている」との判断のもと、今回の結論に至ったとのことです。
ただし、注意すべきは、人件費の総額は増えないとの点です。
というのは、従来の報酬制度は、基本給と職務給、成果給の3本立てであり、新制度は、そのうち職務給(店長手当)を原資として、残業代を支払うとのことです。
これまでの職務給には、一定の残業代相当の収入が含まれているため、新制度へ移行しても店長の年収は変わらないというのが日本マクドナルドの説明です。
要は、店長の給与がそれほど高くなくても、そのこと自体は違法にはならず、今回問題になっているのは、勤務した時間に応じて給与(残業代)を支払わないことが違法なのですから、実質的な支払額は変えずに給与制度を法的に問題のない形式に変更したということです。
1月の判決の影響は大きく、判決に相前後して、セブン-イレブン・ジャパンやコナカなどが店長に対して残業代を支払うように制度を変更しています。
現在、すかいらーくやロイヤルHDも、残業代支払いについて検討中とのことです。
これまでも「名ばかり管理職」は問題となっており、判例も多数ありましたが、これほど一般大衆に認知されている著名な企業についてこのような判決が出たことには、予想以上の社会的影響力がありました。
企業は、労務管理においては、「法令遵守」の精神はもちろんのこと、「企業イメージに対する影響」という視点も忘れてはならないと感じます。