この10年ほどの職場でのパソコンの普及率には目を見張るものがあります。
今回は、会社のパソコンを利用した就業中の私的メールに対する懲戒処分の是非を判断した判例(平成17年5月26日札幌地裁)を紹介したいと思います。
事案は、勤務先のパソコンに許可なくチャット用のソフトをインストールし、他の職員にこれを利用した会話に参加するよう勧誘したこと、チャットを利用して勤務時間中に外部の者と私的連絡や会話を行ったこと、パソコンを利用して勤務時間中に職員間で私的なメール交信を行ったことについて、「職員は物品を浪費し又は私用のために用いてはならない。」という就業規則に違反するものとして、減給処分がなされたことに対し、処分された職員がその懲戒処分を無効として訴えを提起したものです。
裁判所は、メール等の行為が就業規則に違反することは明らかであるとしつつも、不利益処分の根拠としうる(証拠がある)私的メール等の頻度が多いとはいえないこと、当時勤務先においてパソコンの取扱い規則等が定められておらず、パソコンの私的使用に対し注意や警告がなされたこともなかったこと、交信記録の調査方法に疑問があることなどから今回問題となっている減給処分は懲戒処分としての合理性に乏しく、社会通念上重すぎて不当というべきであって、懲戒権の濫用として無効である、と判断しました。
この判例によれば、従業員の私的メール等について何らかの懲戒処分をするのであれば、会社はパソコンの取扱い規則等を定めて注意・警告を行った上で、相当な方法で調査を行うことが必要ということになります。
例えば、戒告処分のような比較的軽微な処分を行う場合にもこのような厳格な要件を満たす必要があるのかは疑問ですが、パソコンの利用について懲戒処分を行うにはパソコンの利用方法についてのルールを作成し、ルールを周知徹底することが必要とされる場合が多いと思われます。