<ポイント>
◆学内教員同士の結婚により、雇止め、配置転換、懲戒処分等がなされた
◆処分された教員らがこれを不服として訴訟提起し、注目を集める
◆訴訟提起後約1か月で処分等撤回の和解が成立
2025年2月19日、学校法人大淀学園宮崎産業経営大学を運営する学校法人と学長を被告として、元教授の男性(40代)と元助教の女性(30代)が訴訟を提起しました。
2人は同大学の法学部で共に働いていて、2024年7月に婚姻届を提出しました。男性が学長に結婚を報告したところ、不快感を示されたということです。
報告の約1週間後には、学長が女性に対して、2025年3月末での雇い止めを通告し、雇い止めの理由について、「同じ職場の職員同士が婚姻した場合、1人が退職するのが不文律」などという説明があり、助教の女性は異議を申し立てました。
その後、大学側は、「女性が学生だった頃(女性は同大学出身)から2人が交際していて、男性が大学側に直談判して女性を教員に採用させた」と主張して、2人に戒告の懲戒処分を科しました。
2024年12月20日ころに、大学側から2人に懲戒手続きの文書が届き、その文書の注釈で「産経大は小規模であり、夫婦共稼ぎはご遠慮いただく不文律がある」と記されていたとのことです。
さらに、2025年2月26日付で女性は教員から事務職員に配置転換となり、男性は教授から准教授に降格する処分を受けました。なお、2人は、学生時代からの交際の事実について「事実無根」であると主張しています。
これらの学校側の対応や処分を受け、2人は、雇い止めや懲戒処分などは労働契約法などに違反し不当だと主張して、教員としての地位の確認や処分の無効などを求めました。
これらの事実がニュースになった際にも学校側は、強硬な態度であり、「本事案は単なる雇用関係をめぐる争いではなく、学園の秩序・規律を乱した重大な規律違反の問題」とコメントし、裁判で争う姿勢を示しました。
しかし、3月21日付で、急転直下、和解が成立し、原告側代理人の弁護士によると、和解では大学側が2人の処分などを撤回して、新年度も2人が助教、教授として勤務することを認める内容となりました。
同大はホームページで和解の成立と処分の撤回の事実を認めた上で、「女性教職員の良好な就労環境を整え、健全な大学運営を行っていく」などとしています。
今回の裁判では、①懲戒処分が有効なものかどうか、②女性の配置転換の適法性、③男性の降格の適法性、④女性の雇い止めの適法性などが争点であったと思われますが、特に大学側が行った④女性の雇止めの適法性が注目を集めていました。
一般に、雇い止めのケースにおいては、契約期間、これまでの更新回数、雇い止めの予告の有無・期間に加え、契約締結時にどのような条件が更新条件として明示されていたかなどが問題となります。
今回は雇止めの理由が「同じ職場の職員同士が婚姻した場合、1人が退職するのが不文律」とされていたことから世間の注目を集め、このような前時代的な退職に関する独自のルールは、民法の定める公序良俗(民法第90条)に違反し無効となるのではないか、あるいは婚姻の自由を定めた憲法24条に反するのではないか等、報道やSNS等において強く批判されました。
筆者がこのニュースを目にしたとき、あまりに古い価値観を前面に出した大学側の見解を知り、このような雇止めや処分を行うにあたり、大学側は専門家のアドバイスを受けたのだろうかという疑問を持ちましたが、その後の強い世論の批判や専門家のアドバイス等を受けて異例の速さでの和解成立となったのではないかと推察します。
懲戒処分や雇止め、解雇等の処分を行うにあたっては、その理由が合理的なものでありかつ取った処分等が相当性を有する必要があるのは当然のことです。
また、企業等の組織は、独自の考え方で誤った意思決定を行い紛争化した場合の企業(今回は学校法人)のレピュテーションリスクについても十分理解しておく必要があります。
今回のケースはその反面教師になったのではないかと考えます。
ただ、今回の紛争については、訴訟提起後、異例の速さで和解が成立し、当事者が新年度までに元の職務に復帰できる結果となったことや、学校法人側が、提訴直後までの態度はともかく、その後早期解決の実現を可能にした柔軟な姿勢を速やかに示したことは評価されるべきと考えます。