<ポイント>
◆令和6年金商法改正で大量保有報告書に関する共同保有者が明確化
◆共同保有者による大量保有報告書の提出義務違反に対する課徴金事例も
先日、令和6年5月15日に改正された金融商品取引法における義務的な株式公開買付け(TOB)に関するルール変更の解説をしましたが、今回は同法改正による大量保有報告書に関するルール変更の一部について解説します。
大量保有報告書については、以前に「大量保有報告書の課題について」の記事で述べたとおり、金融商品取引法では、株券等の大量保有者(株券等保有割合5%超)となった場合には、大量保有者となった日から5営業日以内に大量保有報告書を提出しなければならないという、いわゆる5%ルールがあります。
また、株券等の保有者は「共同保有者」(従来から金融商品取引法第27条の23の第5項及び第6項で規定されていましたが、その内容は上記記事を参照してください)がいる場合にはその者の株券等保有割合も合算しなければなりません。複数の保有者が一定の関係にある場合には、各保有者が個別に自己の保有分のみを開示するだけでは大量保有の実態が必ずしも適切に開示されないためです。
共同保有者のうち、特に問題となるのは、共同して株主としての議決権そのほかの権利を行使することを合意している者です。
近年、複数の機関投資家が連携して、投資先企業との建設的な「目的を持った対話」を行う場合(協働エンゲージメント)を行うことがあり、また、この動きは促進されるべきとされています。
しかし、「共同して株主としての議決権そのほかの権利を行使することを合意」との文言は不明確であるため、共同保有者に該当するかどうかの判断が容易でないことから、協働エンゲージメントを行う上で支障になっているとの指摘がありました。
そこで、上記改正によって共同保有者の範囲の明確化が図られたのです。
上記改正では、金融商品取引法第27条の23の第5項を改正して、金融商品取引業者、銀行その他の内閣府令で定める者が、重要提案行為等を行うことを目的とせずに、株主としての議決権その他の権利を共同して行使する場合については、共同保有者に該当しないこととしました。
上記の明確化では「重要提案行為等」が重要になってきますが、これについては特例報告制度の対象となる場合の要件の一つとして、上記改正以前から規定されていました。
特例報告制度とは、証券会社などの金融商品取引事業者等は日常的に証券の売買を行っており、その際に発行会社の経営権の取得等を目的としないことが多いと考えられることから、大量保有報告書・変更報告書の提出頻度、提出期限等が緩和されている制度です。
この「重要提案行為等」は発行者の事業活動に重大な変更を加え、または重大な影響を及ぼすものとして政令で定めるものであり、政令では発行者またはその子会社に係る事項で、株主総会等で提案する行為とされており、対象事項としては、重要な財産処分等や代表取締役の選定・解職、役員の構成の重要な変更などが規定されています。
このように機関投資家が協働エンゲージメントを行うにあたり共同保有者として大量保有報告書の提出義務を負うことの懸念は相当に払拭されたように思います。
一方で大量保有報告書の提出義務が遵守されていないにもかかわらず、違反者に対して適切な制裁が課せられていない事例が散見されることは上記記事でも述べたとおりです。
しかし、上記改正を契機に変化が見られるようになってきたのかもしれませんが、実際に大量保有報告書における共同保有者の記載が問題となった事例があります。
本年(2024年)6月28日に証券取引等監視委員会は、株式会社三ッ星株式に係る大量保有報告書等の不提出及び変更報告書の虚偽記載にかかる課徴金納付命令勧告を行いました。
この変更報告書の虚偽記載の内容として、共同保有者の保有株券等の数を過大に記載したということが含まれていました。
大量保有報告規制違反単独で制裁が科された初めての事案とされているようです。
なお、株式会社三ッ星に関しては、2022年7月に敵対的な買収に対して、会社は買収防衛策の導入をしましたが、裁判所はその発動を不適法とし、結局、経営支配権が移動しました。
今後も大量保有報告書に関する証券取引等監視委員会の動きには注目していきたいと思います。