家電量販店のヤマダ電機が家電メーカーなどの納入業者に対し、販売員を不当に派遣させていたとの疑いで、公正取引委員会は5月10日、同社への立入検査を実施したとのことです(5月10日読売新聞)。販売員の不当な派遣要求は、独占禁止法違反として公取委が定める告示「大規模小売業者による納入業者との取引における特定の不公正な取引方法」に該当するものとされています。
独占禁止法は「不公正な取引方法」の一環として「自己の取引上の地位を不当に利用して相手方と取引すること」を禁じています。公取委がこれに基づき、大規模小売業者がその取引上の地位を不当に利用して納入業者と取引する場合を指定したのがこの大規模小売業告示です。この告示は平成17年11月1日から施行されています。それまでは百貨店、スーパー等を対象とする同様の告示がありましたが、これらに限らず大規模小売業者の業態が多様化したため、規制対象が一般化されました。
大規模小売業告示が列挙する「不公正な取引方法」を簡単にご説明します。
1 まず「不当な返品」が挙げられています。小売業者が商品を仕入れた場合、売れ残りのリスクは小売業者が負うのが原則です。にもかかわらず無条件で返品を許すならば、売れ残りのリスクを納入業者に負わせてしまうことになって不当です。そこで、告示は一定の場合を除いて返品を禁止しています。除外されるのは、欠陥があるなど納入業者の責めに帰すべき事由があり、納入時から相当な期間内に相当な数量の範囲内で返品がなされる場合や、事前の合意によって返品の条件が定められ、その条件に従って返品される場合(その条件は正常な商慣習といえる範囲内でなければなりませんが)などです。
2 次に「不当な値引き」も違法です。何が「不当」かというと、いったんある納入価格で購入しておきながら、その後に値引きをさせる場合をいいます。これも商品が売れ残りのリスクを納入業者に負わせるのは公正でないという考えに基づくものといえます。ただ、納入業者の責めに帰すべき事由があれば、不当でないケースもあり得ます。
3 「不当な委託販売取引」は1、2の適用を逃れるために委託販売取引が用いられるのを防ぐものです。つまり、委託販売取引においては、利益や損失は納入業者側に帰するのが本質ですから、1、2の適用逃れのために委託販売取引の形態がとられるおそれがあります。したがって、「正常な商慣習に照らして納入業者に著しく不利益となるような条件で」委託販売取引をさせることが禁じられています。買取り仕入れの場合の粗利と同程度の委託手数料とする条件などをいいます(本来であれば、売れ残りリスクを納入業者が負うことから、納入業者が小売業者に支払う委託手数料は安くなるはず)。
4 「特売商品等の買いたたき」も禁止されています。大規模小売業者が特売用の商品として、同種商品の通常の納入価格に比べて著しく低い価格で納入業者に納入させることを指します。
5 「特別注文品の受領拒否」も違法です。つまり、大規模小売業者があらかじめ特別の規格、意匠、型式等を指示して特定の商品を納入させることを契約した後で、納入業者の責めに帰すべき事由がないのに、その商品の全部または一部の受領を拒むことが禁じられています。納入業者がほかに転売する可能性が乏しいことから特に定められたものと考えられます。
6 「押し付け販売等」は、正当な理由がある場合を除いて、納入業者に自社の指定する商品やサービスを購入・利用させることを禁じたものです。正当な理由がある場合としては、大規模小売業者のプライベートブランド商品の製造を委託する際に、納入業者に対して指定の原材料を購入させるような場合が考えらえます。
7 「納入業者の従業員等の不正使用」が今回のヤマダ電機への立ち入り調査で問題となっているものです。大規模小売業者が自社の業務のために納入業者に従業員等を派遣させること、自社の従業員の人件費を納入業者に負担させることを禁じています。あらかじめ納入業者の同意を得て、納入業者の従業員を、納入業者の納める商品の販売業務のみに従事させる場合は許されます。ただ、この場合も、その従業員の技術能力が販売業務に活用され、納入業者の直接の利益になる場合に限られます。派遣の条件に関して合意がなされ、通常必要な派遣料を大規模小売業者が負担する場合も許されます。
8 そのほか、大規模小売業者が、自社のために、納入業者に本来提供する必要のない、あるいは納入業者の得る利益からして不合理な経済上の利益を負担させることは一般的に禁じられています。
9 これらの事項の要求を納入業者が拒否した場合や、これらの行為があったこと、なされようとしていることを納入業者が公正取引委員会に知らせ、または知らせようとしたことを理由に、大規模小売業者が代金の支払いを遅らせる、取引を停止するなどの不利益な取り扱いをすることも禁じています。
なお、この告示でいう大規模小売業者とは、年間の売上高が100億円以上の小売業者、または店舗面積が1500平方メートル(東京都23区、政令指定都市にあっては3000平方メートル)以上の小売業者をいいます。