地震で建物が倒壊した場合の賃貸人の責任について

<ポイント>
◆建物が建築された時期によって耐震基準が異なる
◆理論的には旧耐震基準時代の建物は震度6程度の地震でも倒壊しうる
◆賃貸人への損害賠償請求においては耐震基準を満たしているか否かが問題に

 

顧問先企業から、「旧耐震基準の建物をオフィスとして賃借することについて、どのようなリスクがあるか。万が一、建物が倒壊して損害が生じた場合に、賃貸人に損害賠償請求はできるのか。」というご質問を受けました。

1 旧耐震基準の建物を賃借するリスクについて
 昭和56年(1981年)年5月31日以前の建築確認において用いられていた基準を「旧耐震基準」、翌日の同年6月1日以降に用いられている基準を「新耐震基準」といいます。簡潔に言えば、震度5強程度の地震でも建物が倒壊しないことが求められるのが旧耐震基準、震度7程度の地震でも建物が倒壊しないことが求められるのが新耐震基準です。
 以上の基準からすると、あくまで理論的な話ではありますが、旧耐震基準の建物は震度6、7の地震で倒壊するおそれがあります。これが、旧耐震基準の建物を賃借するリスクということになります。
 なお、木造住宅においては、新耐震基準よりもさらに厳しい基準が平成12年(2000年)に設けられており、2000年基準と呼ばれています。もっとも、今回はオフィスに関する話ですので、2000年基準については割愛しておきます。

2 賃貸人への損害賠償請求について
 それでは、地震により建物が倒壊し、建物に勤務する従業員や物品が損傷した場合に、賃貸人に損害賠償請求することはできるのでしょうか。
 これは、民法第717条の問題です。同条は、「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、…所有者がその損害を賠償しなければならない。」と定めています。これを土地工作物責任といいます。
「土地の工作物」というと聞きなれない言葉でしょうが、「建物」もこれに該当します。「設置又は保存に瑕疵」があるというのは、簡潔に言えば、建物が通常有すべき安全性を有していないことをいいます。建物が通常有すべき安全性を有しておらず、そのために「他人」たる賃借人に損害が生じたときには、所有者たる「賃貸人」がその損害を賠償しなければならない、ということです。
通常有すべき安全性が何かを考えるうえで、上記の耐震基準が重要になると思われます。倒壊した建物がしかるべき耐震基準を満たしていない場合、すなわち旧耐震基準時代の建物であれば旧耐震基準を、新耐震基準時代の建物であれば新耐震基準を満たしていない場合には、「通常有すべき安全性を有していない」といえます(同趣旨の判断をした裁判例として神戸地裁平成11年9月20日判決)。逆にいえば、耐震基準を適切に満たしている建物は通常有すべき安全性を有しており、建物が倒壊した場合でも賃貸人への損害賠償請求はできないと思われます。