【はじめに】
今日、我々は、外国企業との取引もしくは海外旅行等を通じて、日本以外の場所で、または日本人以外の相手方との間で紛争に巻き込まれることがある。このような場合にどのような状態となり、対処方法としてはどのようなものがあるかを考えてみたい。
【外国での民事訴訟】
1.外国判決の日本での有効性
外国で民事訴訟が起こった場合、日本企業、日本人として最も関心を寄せるのは、外国でなされた判決が日本で有効かということである。
なぜならば、国際民事訴訟で最も多い請求は金銭支払請求であるから、自分が財産を有する日本国内で有効でなければ、外国判決など恐れるに足りないと言えるからである。
本項では、この点に焦点をあてて述べてみたい。
なお、外国判決といっても各国で手続きは千差万別であるが、特に日本企業、日本人が関与することが多い北米(アメリカ、カナダ)での紛争を例に取ることとする。
2.北米で訴状を受け取ったとき
被告が北米滞在中に訴状を受取った場合、外国判決は日本でも有効となる。従って、紛争が予想される状態で北米に行く必要のある会社の代表者は、代表権を返上して行かないと、北米での裁判に簡単に巻き込まれてしまう可能性がある。
3.日本で訴状を受け取ったとき
日本で北米の裁判所に提出された訴状を受け取る場合としては、大まかに言って3パターンがある。つまり、
(1)北米の原告から直接に訴状が郵送されたり、日本にいる代理人が訴状を持参する場合で、日本語訳を添付していない場合
(2)(1)と同じであるが、日本語訳を添付している場合、
(3)日本の地方裁判所を通じて訴状が届く場合(この場合には日本語訳は常に添付されている)
である。
この3パターンのうち、日本の地方裁判所を通じて北米の訴状が届いた場合のみ、北米での判決が日本でも有効となりうる。
もっとも、(1)、(2)の場合でも、被告が、わざわざ北米での裁判に出席したり、答弁書を提出したりした場合には、北米での判決が日本で有効になりうる。
4.答弁書を提出しなかったらどうなるか
次に、日本国内で、北米の訴状を、日本の地方裁判所を通じて受取ったが、答弁書の提出等をしなかった場合どうなるのか。
この場合、北米の裁判所は欠席判決(Default
Judgment)をすることになる。
これは、日本の場合の欠席判決と同様、原告の言い分を殆ど認めた内容となる。
この場合には、証拠調べはしないので、ディスカバリー(Discovery)に関する手続きは行われないことが多い。
原告は、多くの場合、この欠席判決(Default
Judgment)をもとに、日本にある被告の財産に強制執行をしようとする。
そのために、日本の地方裁判所に対して、強制執行を認める判決を求めて訴訟をすることになる。
被告はこの訴訟には関与できるが、反論できるのは、北米の裁判所には管轄(裁判をする権限)がなかったとか、適法な訴状の送達を受けていないとかの手続きが違法であったことだけである。
ただし、被告は、北米での手続きをひっくり返すことで、日本での訴訟に勝つことが可能である。
すなわち、コモンロー(イギリスを中心とした法制度であり、北米、香港などが採用している)では、欠席判決(Default
Judgment)があってから相当な月日が経った後でも、被告が原告に対して強い反論材料があり、かつ、判決があったことを知ってから速やかに申し出た場合には、審理をやり直してくれる場合があるからである。
【日本での外国人、外国企業を被告とした民事訴訟】
日本国内で行う民事訴訟であるから通常の民事訴訟と殆ど異なるものはない。
ただし、訴状を外国にいる被告に送達するについては、外交チャンネルを通した方法によらなければならないため、北米の被告に送達するのに一ヶ月以上(その他の国ではより長い期間)はかかるものと考えなければならない。
また、日本の判決が外国で有効でないとその国で強制執行をすることができず無意味となるが、北米、欧州をはじめとする国々とは日本の判決が有効とする旨の条約を締結している。
日本で得た判決を北米で執行しようとするときは、判決の有効性を認める判決を得る(Recognition)ことになる。
このRecognitionの手続きは、各国で異なっている。カナダのブリティシュコロンビア州では、日本判決に訳文及び原告の宣誓供述書(Affidavit)を添付して申立てることになっている。