国際的なインサイダー取引事案に課徴金納付命令が  
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<ポイント>
◆海外居住者によるインサイダー取引に課徴金納付命令が
◆告発事案と課徴金事案を一体的に処理した事案も
◆役職員のインサイダー取引防止は引き続き上場会社にとって重要事項

 

証券取引等監視委員会は、2008年(平成20年)から毎年公表している「金融商品取引法における課徴金事例集」を2024年(令和6年)6月27日に公表しました。
この課徴金事例集によると、令和5年度(令和5年4月から令和6年3月)に課徴金納付命令を出すよう勧告が行われたインサイダー取引件数は13件(7事案。1事案で2件、3件及び4件の勧告事案がそれぞれ1事案ずつありました)と昨年の8件(5事案)より大幅に増加しました(インサイダー取引規制の概要については拙稿「インサイダー取引をさせないための社内対応」参照)。
課徴金額も1件あたり平均約350万円となり、過去の平均額と同じくらいとなりました。

今回の課徴金納付命令事案7事案のうち、公開買付が関係するのは4事案であり公開買付の事案が依然として多数あります。これは、昨今の事業再編の流れをうけたものと思われます。
また、品質検査における検査結果の改ざんが重要事実である事案があることも昨今の状況を表しているものといえます。

今回の事例集のうち興味深いものとして、ZOZOの中国子会社の役職員によるインサイダー取引規制違反事案があります。
事案自体は相当以前のもので、令和元年9月12日にヤフーがZOZOの公開買付を実施することが公表されましたが、それ以前にヤフーからの伝達により公開買付を知ったZOZOの役員が社員にその旨を伝達し、当該社員がZOZOの中国子会社の役員に伝達し、その中国子会社の役員が知人に5500万円を送金してZOZOの株式の買付けを依頼したというものです。
違反者は中国在住の日本人と思われますが、証券取引等監視委員会が課徴金納付命令を発出するよう勧告を行ったのは令和5年9月8日ですので、取引後約4年が経過しています。
本件では、違反者が知人名義口座を介して9月10日にZOZO株式を買い付けたときの平均単価が約2113円、公表後2週間の最高値は2615円ですが、実際に売却したときは買付価額より低くなっていたため、約853万円の損失が生じたということです。
しかし、課徴金額は上記最高値を基準として算出されるので、違反者には1303万円課されます。違反者には、結局、約2000万円の損失が生じたようです。

また、令和4年12月26日に東京地方検察庁に告発された2事案と関連する事案について、令和5年11月21日に課徴金納付命令を発出するよう勧告が行われました。
昨年、「役職員のインサイダー取引防止の必要性は依然として高い」で株式会社スクウェア・エニックス(スクエニ)の告発事案(執行猶予付きの懲役刑等が課された刑事事件となりました)を報告しました。
この事案は、携帯電話機向け新作ゲームの共同開発を行っていたところ、配信開始を見込める段階までに進捗していたこと等を知ったスクエニの従業員2名がインサイダー取引を行った事案です。
今回の事例集で、上記スクエニの従業員から上記重要事実である新作ゲームが配信開始を見込めるまでに開発が進捗していることを伝達された同従業員の知人がインサイダー取引をした事案が報告されています。
証券取引等監視委員会は、告発事案と課徴金事案を一体的に処理していることがわかります。
このように告発事案と課徴金事案を一体的に処理した事例は他にもありました。
事案の詳細は割愛しますが、上場会社の社外役員が、当該上場会社に対する公開買付けが行われるとの情報が公開買付者から伝達された後、当該社外役員が、代表取締役専務を務める会社と共同して当該上場会社の株式を購入し、かつ知人にも情報伝達をして当該知人が同様に株式を購入したものです。
この事案も、令和4年12月1日に告発されて当該社外役員に懲役1年6ヶ月の求刑がされ(判決は不明です)、令和5年6月27日に当該知人に対して課徴金納付命令を発出するよう勧告が行われました。

さらに、上記の社外取締役の事案を含め、発行体である上場会社及びその子会社の役職員によるインサイダー取引規制違反が7事案中5事案ありました。
役職員のインサイダー取引防止は引き続き上場会社にとって重要事項の一つです。