2009年8月1日に日本でもウィーン売買条約(正式名称は「国際物品売買契約に関する国連条約(CISG)」)の効力が発生します。
ウィーン売買条約は、異なる国の事業者間の物品売買を規律するために国際連合国際商取引委員会(UNCITRAL)によって起草され、1980年ウィーンで開催された外交会議で採択、1988年に発効した国連条約です。2009年1月1日現在、米国、カナダ、中国、韓国、ドイツ、イタリア、フランス、オーストラリア、ロシア等73ヵ国が締約しています。
日本は2008年7月1日に批准しました。
ウィーン売買条約は、国際物品(動産)売買契約が条約締結国の事業者(会社とは限りません)間で行われた場合に適用されます。また、国際物品売買契約が条約締結国の事業者と非条約締結国の事業者間で行われた場合にも、契約の準拠法(その国際契約を規律する国の法律)が条約締結国の法律であれば適用されます。
したがって、条約締結国である日本の会社が外国会社と物品売買契約をする場合、その外国会社も条約締結国の会社であればウィーン売買条約が適用されることになります。また、その外国会社が非条約締結国の会社であっても、その売買契約の準拠法が日本法(つまり条約締結国の法律)であれば、ウィーン売買条約が適用されることになります。日本の民法・商法を適用したい場合には、契約書の中に「日本法を準拠法とする」との規定に加えて「ウィーン売買条約の適用を排除する」としなければなりません。
なお、ウィーン売買条約は事業者間の契約にのみ適用されるので、消費者が契約の当事者である場合には適用がありません。
ウィーン売買条約と日本の民法・商法の違いの一部を説明します。
日本の商法では、商品のクレーム提起期間は最長で商品の引渡しから6ヵ月ですが、ウィーン売買条約では引渡しから2年間とされており、買主に有利になっています。
なお、検品によって不適合品が発見された場合、日本の商法では買主は受領後ただちに通知しなければならないとなっています。ウィーン売買条約では「発見した時または発見すべきであった時から合理的な期間内」となっています。日本語にすると意味が異なるようですが、両者はほぼ同じ意味と理解されています。
契約解除についても大きな違いがあります。日本の民法では契約違反があり一定期間内に是正されないときは契約解除ができるとされています。しかし、ウィーン売買条約では契約解除は「重大な契約違反」の場合にしか認められません。これは、ウィーン売買条約がいったん成立した契約はできるだけ存続させるべきであるとの思想に基づいているためです。
その他、日本の民法・商法では、たとえば売主が代金支払より先に商品を引き渡すことになっている場合、買主の代金支払能力に疑いを持ったときでも売主は商品の引渡しを実行しないと契約違反となります。しかし、ウィーン売買条約では契約違反となりません。相手方が義務を履行しないと推測される場合には自らの義務の実行を停止できるからです(「不安の抗弁」といいます)。
今後、日本企業が当事者となる契約にウィーン売買条約が適用されることが多くなり、国際取引の際の重要な法律になると思われます。また、著名な民法学者や法務省の官僚が中心となって日本民法の一部(債権法)を改正しようという動きがあり、その基本方針も発表されています。この基本方針の中にはウィーン売買条約とよく似たものが多く含まれています。この点からもウィーン売買条約の重要性は高まっていくものと考えられます。