<ポイント>
◆独占的販売権と最低販売量には強い関連性がある
◆ウィーン売買条約が適用される場合があることに注意
昨今の国際化に伴い、外国の会社との間で契約を結ぶことが増えてきました。大企業は言うに及ばず中小企業でも国際取引をすることが多くなってきたと思います。
その中には、契約のたびに契約書を取り交わすのではなく、予め基本的な事項を決めた上で、注文書と請書といった簡易な書面のやりとりで取引をすることがあります。
このように基本的な事項を予め契約書で定めておくことは国内取引でもよく行われています。
このような契約書は、国内取引では取引基本契約書というタイトルを付けられ、渉外取引における英文契約書では、その多くが売買契約であることから、Distributorship Agreement とかBasic Purchase Agreementというタイトルがつけられることが多いです(本稿では売買に限って述べることとし、国際売買基本契約と呼びます)。
なお、外国の会社や個人を代理店に対して商品を販売するような場合には特別な注意が必要であることは拙稿「国際代理店契約の注意点」をご覧ください。
国際売買基本契約書では、買主に独占的(exclusive)販売権を与える旨が定められることがあります。この規定は、買主のみがその国、地域で売主の商品の販売をすることができるとするものです。
買主としては、その国、地域で費用と時間をかけて市場を開拓しても、後から他社がその商品を販売できるのであれば買主の市場開拓努力が無駄になります。そうならないよう買主のみが販売権を持ち、他社に販売させないようにするのです。
この独占的販売権の規定の仕方については、独占販売権を与えられた国、地域において売主が販売権を有するものと売主も販売権を有しないものに大別されます。
そして、売主も販売権を有しない場合でも、契約期間は売主は販売権を有しないものもあれば、一定の条件(たとえば販売数が一定数以下の場合)が満たされれば売主も販売権をもつものもあり、様々なバリエーションがあります。
独占的販売権が規定される場合、売主としては、その国、地域での販売が制限されることになるので、最低販売量を定めて、その量以下の場合には買主に何らかのペナルティを課したり契約内容の変更を希望することが多いです。
最低販売量の規定の仕方については、定められた量と実際の販売量との差を売主は支払わなければならないという買主にとって厳しいもの、定められた量に達しない状態が何カ月もしくは何年か続けば独占的販売権を失うとか、売主は契約を解除できるというやや緩やかなものがあります。
また、最低販売量を定めるが、数年間は努力目標にするというものもあります。
契約が終了した場合の在庫をどうするかも重要な事項です。契約が終了したら、売主は、当該国、地域の市場から撤退するのでなければ、自ら販売するかまたは別の会社との間で国際売買基本契約を締結することになります。
その場合、従前の会社が大量に商品在庫を持って市場で流通させれば自ら販売したり、別の会社に販売させることが困難になってきます。
そこで、契約終了時の在庫に関する規定が必要になってきます。
契約終了時の在庫の規定の仕方については、終了時の在庫は全て廃棄するという厳しいもの、終了時の在庫を売主の査定で強制的に買い上げるとするもの、一定期間(たとえば6カ月間)は販売できるとするものなどがあります。
最後に、国際売買基本契約ではどこの国の法律を適用するかを定めることが一般的です。自国の法律を適用できれば、慣れていますし、弁護士への依頼も容易ですので有利ですが、相手もそれを希望するのでなかなか合意に達しないことも珍しくありません。
契約当事者が自国の法律を適用することを主張し合って合意できない場合、被告側の国で裁判を行い、その国の法律を適用すると決めることもあります。
日本企業と外国企業間の国際売買基本契約において、日本の法律を適用できるとなっても、日本はウィーン売買条約の締結国ですので、同条約が適用される可能性が高いことに注意しなければなりません。(ウィーン売買条約の概要は、「国際物品売買契約に関する条約(ウィーン売買条約)について」 参照)
しかし、同条約の内容は日本の民法とは異なる箇所も多いため、同条約の適用を排除したい場合もでてきます。その場合には、契約書で明確に同条約を排除する旨(オプト・アウト)を規定しなければなりません。