国際売買をめぐる紛争で日本の裁判管轄が認められた裁判例
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今回は、平成18年4月4日に東京地裁で出された、国際取引で起こった紛争を日本の裁判所が審理・判決できるとした判例を紹介します。

この事件の原告は沖電気工業株式会社で、被告はアメリカの会社とその子会社の台湾の会社です。事案の骨子は、沖電気が台湾の会社から購入した機械に欠陥があり、それを沖電気の取引先に売却した後に交換等を余儀なくされて約5億円の損害を被ったというものです。
国際取引で紛争が起こった場合、どこの国で裁判をするかというのが非常に重要になってきます。特に中小企業の場合には外国で裁判をするとなるとその国の言語に堪能な社員がいないことも多いし、現地に支社等もないことも多いので、裁判を進めていくのに多くの手間と費用がかかることになります。
どこの国で裁判するかについては、世界で統一された条約等がないため、結局、特に不都合であるとか一方当事者に不公平になるなどのことのない限り、各国の民事訴訟法に従うことになります。日本の最高裁判所もこのような立場を認めています。

国際売買に関する紛争では、日本の民事訴訟法では、被告の所在地か義務履行地が重要です。ただ、商品の引渡し義務や代金の支払義務の履行地がどこかというのを明確にすることが困難なことも多いのです。そのため、日本の裁判所が、義務履行地は日本だと判断して判決しても、相手方の国の裁判所では義務履行地は日本ではないと判断すれば、日本の判決を認めてくれないことになり、日本の判決が無意味になる可能性もあります。したがって、本件のような事例においても、そのリスクを考慮し、被告である売主の国で裁判せざるをえないことも十分ありえます。上記の判例も義務履行地が日本であるとの原告の主張は退けました。

ところが、日本の民事訴訟法には、不法行為、すなわち過失により相手方に損害を与えた場合には、過失行為を行った国または損害が発生した国で裁判をすることができるという規定があります。裁判所は、機械に欠陥があることが不法行為に該当するとして、沖電気に損害が発生した地である日本で裁判をすることができると判断しました。たとえば、機械に欠陥があって使用していた人が怪我をした場合、その怪我をした人が機械の製造者の国で裁判しないといけないというのは不合理なので、損害が発生した場所での裁判を認めようというものであり、これが契約関係のない第三者に対してだけではなく、一般の商取引という契約関係にある場合にも適用されるとしたのです。

さらに、この判例は、機械を販売した台湾の会社だけでなくアメリカの親会社と沖電気の間にある紛争についても日本で裁判できるものとしました。その理由は、機械の表面にアメリカの会社のロゴマークが表示されていることから、欠陥機械の製造に関与していることを認めているものして、同様に不法行為の損害発生地は日本であるとしたものです。要するに、アメリカの親会社と台湾の子会社が共同して作った機械に欠陥があったということを認めて、日本で裁判することにしたのです。