<ポイント>
◆まずは証拠集めを行う
◆指導、注意、懲戒処分などを適宜行う必要あり
◆なるべく解雇は避けて退職勧奨を試みるのが原則
私が労働問題についてよくご相談を受けるのは問題社員への対応です。
その人の問題のある行動で職場の雰囲気が悪くなったり退職したりする人まで出るので辞めてもらいたいのでどうしたらよいか、というご相談が多いです。
問題と言っても多岐にわたり、なかなか仕事が覚えられない、営業と称してさぼっていることが多い、人間関係のトラブルが多い、上司の指示に合理的な理由なく逆らう、背任や横領などの不正を行うなどです。
背任や横領などの刑事上の犯罪行為はほとんどの企業の就業規則で懲戒解雇の対象となっており、裁判上もよほどの少額でないかぎり、手続きをきちんと踏めば、懲戒解雇の効力が認められることが多いですし、後日争いになることも少ないです。
ただ、その他の問題については、それを理由として解雇するのはかなりハードルが高いのが正直なところです。
まず、問題のある行為について証拠集めをする必要があります。これは指導や注意をするためでもあります。
通常業務を行いながら日ごろのちょっとしたやりとりを記録するのは難しいことです。
しかし、裁判において、この人物は問題行動が多かったから解雇したのだ、と言っても、当然のことながら裁判所は何が問題だったのかの主張立証を求めます。
指導しても改善せず、退職勧奨がうまくいかず、解雇しか途がない場合には、証拠をコツコツと収集するほかないので、その準備と指導の前提を兼ねて事実関係を証拠化することになります。
次に、問題のある社員について、具体的な指導や事実上の厳重注意や、懲戒処分などを行う必要があります。
ミスを数回したからと言って解雇が認められるものでもありませんし、職場の数人と喧嘩して関係が悪いからと言って解雇できるわけでもありません。
何度も会社から適切な指導や注意、場合によっては懲戒処分を行ってなお改善の兆候がみられない場合に初めて解雇が有効となる可能性がでてくるのです。
そのため、まず事実関係についての証拠を集めたうえで、事案の軽重に応じて、書面やメールで指導や注意、場合によっては懲戒処分を行う必要があるのです。
この点について、やる気がない、営業成績があがらないなどの理由で懲戒するのは難しくどうしたらいいのか、というご相談を受けることもよくあります。
この場合には、現実的に可能なものであることが大前提ですが、具体的にやってもらうべきことを書面にして指導するという方法があります。例えば、月に何件担当先を訪問するなど、やったかやっていないか客観的に判断できるもので、売り上げのように本人がコントロールしきれない結果ではなく過程に着目するものであることが必要です。具体的な指導内容は業務内容によって異なりますが、顧客の名前を全く憶えないという場合であればテスト形式でその事実を立証するなどもあり得ると思います。ただ、いきなりテストをするのは避けたほうが良く、何度か覚えるように指導や注意をした後にテストを行う必要があります。
このあたりのさじ加減は弁護士に相談しながら進めていくことをお勧めします。
なお、この段階で行動を改めてもらえばそれに越したことはありません。事例としてはあまり多くはありませんが、このような方法を取ることによって、会社側の姿勢が伝わり、問題となる行動が収まって働き続けている社員もおり、それも問題の解決したケースと言えます。
上記のような証拠収集、注意や処分を行ったうえで、ある程度回数を重ねても全く改善しない場合には、解雇を検討することになります。
なお、企業のポリシーや他の従業員への影響等に鑑みて可能であれば、ある程度の退職金の加算をする、退職時期をずらすなどの条件を示して退職勧奨を行うのも一つの方法です。いきなり解雇してしまうと法的紛争になる可能性が高く、勝訴するにしても手間暇や費用がかかるからです。
なかなか一般化して文章にするのは難しいのですが、このような対応方法が参考になれば幸いです。