最近の相続税の税務調査事績によれば、申告漏れ相続財産の金額のうち、六割弱を現金・預貯金および有価証券が占めています。
このことから、相続税の税務調査では金融資産への対応が中心となっており、被相続人名義の預貯金や株式ではなくても、名義預金等として課税修正されるケースが多いようです。
そこで今回は、トラブル防止のため、名義預金に関してポイントを整理してみます。
【家族名義の預貯金等】
1 名義預金等とは
形式的に配偶者や子・孫などの名前で預金しているものの、収入等から考えれば、実質的には真の所有者は別、すなわち、親族の名義を借りているのに過ぎない預貯金をいいます。
名義は被相続人でなくても、実質的に被相続人に係る預貯金と認められるものは、被相続人の相続財産とされます。
このような名義預金のほか、株式についても同様に名義株式とされるものがあります。
2 贈与の成立要件
贈与税の課税対象とされる贈与には、(1)民法上の贈与(非課税とされるものを除きます)、(2)相続税法上の独自の観点から設けられたみなし贈与(例えば、生命保険金の受取り等)の2種類があります。
民法上の贈与については、民法549条で「贈与は当事者の一方が自己の財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受託をすることによってその効力を生ずる」と規定されています。
このことから、贈与者による贈与の意思表示と受贈者による受贈の意思表示をもって成立する契約(諾成契約)行為であることが特徴であり、贈与者による一方的な意思表示のみでは民法上の贈与は成立しないことになります。
贈与による財産の取得の時期は、次のようになっています。
ただし、その贈与の時期が明確でないときは、その所有権等の移転の登記または登録があった時とされます。
例えば、父が子名義で毎年預金をしていても、その預金の存在をその子が知らない場合には、受贈者(子)による受贈の意思表示がないことから、民法上の贈与としての諾成契約は成立していないことになり、贈与は成立していないと考えられます。
そのため、子名義の預金が行われて何年経過していても、民法上の贈与が行われていない以上、税務上も贈与は成立していないことになります。
3 名義預金の判定基準
相続税の調査の際、特に問題となることの多い名義預金の判定基準は、以下のとおりです。
(1) 使用印鑑
家族名義の預金の印鑑がすべて同一であり、しかも通常被相続人が自分の預金に使用しているものと同じである場合には、名義借りの可能性が高くなります。
(2) 受取利息
家族名義の預金の利息を被相続人名義の預金等に入金し、被相続人が費消していると認められる場合には、名義借りの可能性が高くなります。
(3) 保管(管理)状況
預金通帳や証書等を誰が保管(管理)していたかで、名義人の判断材料とされます。
例えば、被相続人がすべて自分で管理しており、名義人はそのような預金があることさえ知らなかったような場合には、当然名義借りと見られます。
(4) 贈与税の申告の有無
贈与税の申告がない場合は、名義借りと判断される可能性が高くなります。
※参考に名義預金の簡易判定表を掲げます。
【預金の把握のされ方】
前記したように、家族の名義になっているものが名義預金に該当し相続財産に含まれる場合、相続人の多くは抵抗します。
しかし、課税の公平の見地から、税務当局による以下のような厳しいチェックがありますので十分に理解して正しい申告納税に努めましょう。
(1) 預金の把握
税務調査前に必ず被相続人はもちろん家族全員の預金まで調べられます。
(2) 家族名義の預金
被相続人以外の家族名義の預金は、本当に家族の預金かどうか確認されます。
つまり名義預金かどうかのチェックです。
家族の収入、財産形成の経緯を徹底的に調査し、例えば、配偶者の預金については、配偶者の過去の収入、実家における相続の有無等によって、本当に配偶者の預金であるかどうかを調査されます。
子や孫の預金も、当然、それぞれの収入等から本人のものであるかどうか確認されます。
(3) 預金の引き出しをチェック
大口の預金の引き出しは必ずチェックされます。
例えば、定期預金の引き出し、株式や土地の売却代金の引き出しがあれば、その行方が確認されます。
この引き出されたお金が、何らかの預金になっているか、または何を購入しているかが確認されます。
借入金の使用目的も問われます。
借入金で株式の購入、建物の建築、土地の購入、または貸付金になっているケースなど、いずれにしても大口のお金の移動は確認されます。
(4) 何年前まで調べられるのか
大型の相続であれば、相当以前から古い資料も残っています。
時効の関係から不正があった場合は7年ですが、通常は5年前まで調べられます。
問題は、何年前から名義が本人以外のものになっていたとしても、贈与の事実確認が重要で、贈与税の申告がされていたかどうかがポイントになります。
(5) 死亡日前の預金の引き出し
相続税は、死亡日の被相続人の財産に課税されます。
したがって、死亡日前に被相続人の預金を引き出してしまえば消えてなくなり、課税されないと考える人が多いのですが、これは全く無意味なことです。
預金の把握は、死亡日の当日だけを調査するのではありません。
被相続人はもちろん、家族名義の預金も最低5年くらい前から調べられます。
まして、死亡日直前に預金が引き出された場合、当然そのお金が、何に使われたのかがチェックされます。
病院への支払い、葬儀の費用、物品の購入と、支払いの使途が明確であれば問題にはなりません。
したがって、直前引き出し分で死亡日の残高は、現金(直前引出分)として計上し、その後支払う葬儀費用や債務はそれぞれ計上して明確に処理することが大切です。