<ポイント>
◆取締役による期末配当決議が一定数の会社で行われています
◆そのためには取締役の任期が1年で定款の定めが必要
◆株主の権利を制限するため一般化するかは不明
多くの上場会社は6月中旬から下旬にかけて定時株主総会を開催します。総会の議案としては、剰余金処分案が招集通知に記載されることが多いのですが、今年の株主総会の招集通知に記載のない会社が一定数ありました。
これは剰余金処分案を取締役会議案としたためです。
株式会社の剰余金の配当は、その都度、株主総会で決議することが原則ですが、一定の条件を満たした場合には取締役会で決議することができます。
その条件としては、①会計監査人設置会社であること、②監査役会設置会社、監査等委員会設置会社、指名委員会等設置会社であること、③取締役(監査等委員会設置会社の監査等委員を除く)の任期を1年とすること、④定款に剰余金の配当の決定を取締役会の権限とする旨の規定があること、⑤最終事業年度に係る計算書類についての会計監査報告についての内容に無限定適正意見が含まれており、かつ、当該会計監査報告に係る監査役会・監査等委員会、監査委員会の監査の内容として会計監査人の監査の方法・結果を相当でないと認める意見がないこと、です。
たとえば、トヨタ自動車は、従前より上記定款の定めを有していましたが、株主の意向を直接聞くために剰余金処分案を株主総会で決議してきました。しかし、本年2016年は株主総会の議案とせずに取締役会で決議しました。
なお、中間配当については取締役会決議でできますが年1回に限られます。中間配当についても定款で、取締役会で決議できる旨の規定が必要です。
剰余金処分案を取締役会で決議することにより、配当を受けられる日が前倒しになり、その点は株主としてはメリットがあるようです。たとえば、トヨタ自動車の場合には、昨年は配当の効力が生じる日は株主総会の翌日の6月17日でしたが、今年は6月2日(株主総会は6月15日)でした。
一方で、配当額等についての質問は事業報告に関するものとして制限されませんが、剰余金処分案は株主総会の議案ではないので、配当増額の動議として提案することはできなくなると思います。
これは株主の権利が制限されることになります。株主としては、株主提案権を行使するしかないということになりますが、剰余金の配当を株主総会の決議事項としない旨を定款で定めることもでき、その場合にはその定款を変更しないと株主提案権の行使もできないことになります(実務的には、株主提案権として定款変更議案と配当議案をあわせて行うことになると思います)。
現在、多数の上場会社の取締役の任期は1年となっており(監査等委員会設置会社の監査等委員を除く)、剰余金の配当の決定を取締役会の権限とする旨の定款変更をすれば、取締役会で剰余金処分案を決議することができるようになります。
その意味で、このハードルはそれほど高いものではありませんが、前述の株主の権利が制限されるためにこの動きが一般化するかどうかは不明です。