平成14年5月1日施行の改正商法で、株主代表訴訟と取締役会の責任についての規定が変わりました。
今年度の株主総会の議案にも関係しますので、実務上理解しておくべき主な点について解説します。
1 株主代表訴訟に関する新しい規定
【監査役の考慮期間の伸長】
株主が取締役の責任追及の訴えを提起しようとする場合、まず監査役に対し、会社の名において訴を提起するよう請求しなければなりません。
請求を受けた監査役は、調査をしたうえ提訴するか否かを判断しますが、そのための考慮時間がおかれます。
従前その期間は30日でしたが、商法改正後は60日に伸長されました。
60日を経過しても監査役が提訴しない場合に、その株主は株主代表訴訟を提起できることになります。
【提訴されたときの公告または株主に対する通知】
取締役に対する責任追及の訴えが提起された場合(監査役による場合と株主代表訴訟による場合があります)、会社は、その訴訟に他の株主も参加できるよう、公告(所定の新聞など)または株主への通知(どちらでもよい)をしなければならないことになりました。
商法改正前にはそのような規定はなく、他の株主が訴訟に参加する機会が保障されていませんでした。
【株主代表訴訟での和解】
株主代表訴訟を起こした株主と被告取締役との間で和解(取締役が責任を認めて一定額の賠償金を支払うという)が行われることがあります。
商法改正によって、和解をしようとするときは、裁判所から会社に対し和解の内容を通知し、その和解に異議があれば2週間以内に申し出るよう催告することになりました。
被告取締役が和解金(損害賠償金)を支払う相手は会社ですから、会社にもそれなりの発言権を与えようという趣旨です。
株主に対しては和解について通知されることはありません。
催告を受けた会社が和解の内容に異議を述べた場合は和解はできません。
のちに述べるように、改正商法で取締役の責任減免手続も設けられた関係で、つまり賠償金額の目安ができたため、今後取締役の責任問題に関しては、和解による早期解決が促進される可能性が出てきました。
【会社による訴訟参加】
取締役の責任問題が取締役会決議の違法性・不当性に基づくとされるときは、会社の機関が批判の対象になっていることを意味しますから、会社も被告取締役に加担して、会社としての正当性を主張する必要が出てきます。
そこで、会社はこのような場合、株主代表訴訟において被告取締役へ補助参加することができる、ということが明文で認められました。
従前これができるかどうかは大いに議論の分かれるところでした。
但し、今回の商法改正で、会社が被告取締役へ補助参加するためには監査役全員の同意(大会社の場合、監査役会の全員一致の決議)が必要ということになりました。
2 取締役の責任減免手続
【法令または定款に違反する行為に限られる】
改正商法によって取締役の責任減免に関する規定が新たに設けられました。
取締役が「法令または定款に違反する行為」(商法266条1項5号)を行い、それによって会社に損害賠償責任を負う場合、その取締役が職務を行うにつき「善意かつ重大な過失がないときは」、所定の手続を経ることによって、一定の限度額において責任を免除することができることになりました。
減免されるのは上記の場合だけで、違法配当、株主に対する利益供与、他の取締役への金銭貸付け、利益相反行為等によって会社に損害を与えた場合はこの減免の対象にはなりません。
【所定の手続とは】
取締役の責任を減免する所定の手続とは、
(1) 株主総会における(3分の2以上賛成による)特別決議
(2) 取締役会の決議(あらかじめ定款変更が必要)
(3)(社外取締役の場合)責任限定契約(あらかじめ定款変更が必要)
株主総会にこの議案を提出するには監査役会の同意(監査役全員の同意)が必要です。
また、取締役会で責任免除決議を行うのは「その取締役の職務遂行の状況、その他の事情を勘案して特に必要と認める場合」であり、またその議案を取締役会に提出するときは監査役会の同意(監査役全員の同意)が必要です。さらに、減免の決議後、株主にそのことを公告または通知しなければなりません。
【異議が多い場合】
公告または通知によって株主から異議申立てがなされ、それが総議決権数の100分の3以上となった場合は、取締役会決議による免責はできなくなります。
その場合、改めて株主総会の特別決議による免責の手続を行うことは可能です。
しかし、それならはじめから株主総会の特別決議にかける方がよいとする考え方もあります。
また、取締役の責任追及の事案が発生したときに、株主総会にかけて免責を決定すればよく、あらかじめ定款変更することは適当でないとして、今年度の株主総会ではこの定款変更議案を提出しない会社が多いようです。
【賠償責任額】
新たに定められた取締役の賠償責任の限度額は、代表取締役についてはその年収の6年分、他の社内取締役は4年分、社外取締役は2年分です。
但し、この金額の算定には、過去及び今期(予定)の最も高い額を基準とするほか、退職慰労金や新株予約権の権利行使による利益なども斟酌されます。
【社外取締役との責任限定契約】
社外取締役については、会社とその取締役との間で、賠償責任を負うべき金額を一定限度とする旨の契約をあらかじめ締結しておくことができます。
そして、その契約による限度額と上記法定の限度額のいずれか高い方の金額を限度として責任を負うことになります。
社外取締役とは、その会社の業務を執行しない取締役で、過去にその会社または子会社の業務を執行する取締役や従業員になったことがない者を言います。
この責任限定契約に基づいて社外取締役の責任を減免した場合は、次の株主総会でそのことを事後報告しなければなりません。
なお、(3月決算の会社では)平成14年6月総会以降に選任される社外取締役はその旨の登記をする必要があります。