厚生労働省が「パワーハラスメント」の概念や具体例を公表
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<ポイント>
◆パワハラはほぼ全ての人間関係に起こりうる
◆過小な要求もパワハラになりうる

2012年1月30日付けで、厚生労働省は「パワーハラスメント」の概念や具体例、企業の取り組み例等を整理した報告書を公表しました。
パワーハラスメント(職場のいじめ・嫌がらせ)問題は、社会問題化しており、都道府県の労働局に寄せられる相談件数も平成14年度には約6,600件であったのが平成22年度には39,400件と年々急速に増大しており、「その他」「解雇」に次ぐ相談件数となっています。
しかし、何をもってパワーハラスメントというかははっきりしておらず、厚生労働省からの定義付けや解決方法などの提示もなかったことも対処をより困難にしていました。
セクシャルハラスメントの場合は、一緒に働く仲間や取引先の人間を性的な対象として扱ってはならないという原則があるので、問題となる行為とそうでない行為の境界線が引きやすいのですが、パワーハラスメントの場合は、業務命令という業務の遂行に不可欠な行為がそもそもパワーの行使そのものなので、どこまでが業務の指導でどこからがパワーハラスメントとして問題になるのかがわかりにくいのです。

今回の報告書は、パワーハラスメントの概念、具体例、労使の取組例について報告しています。
今回は紙面の関係で、その中のパワーハラスメントの概念、具体例について説明させていただきます。

まず、パワーハラスメントの概念としては「職場のパワーハラスメントとは、同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」と述べています。
注として、「上司から部下に行われるものだけでなく、先輩・後輩間や同僚間、さらには部下から上司に対して様々な優位性を背景に行われるものも含まれる。」と付記されています。

定義としては、今まで言われていたものと大きな差異はないのですが、同僚間のみならず、部下から上司への行為もパワーハラスメントになりうることが明言されている点が注目されます。
職場における人間関係の優位性を利用したいやがらせやいじめ全てがパワーハラスメントになりうるということです。

つぎに、パワーハラスメントの行為類型として、次のような例が報告されています。
(1)暴行・傷害(身体的な攻撃)
(2)脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
(3)隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
(4)業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
(5)業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
(6)私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

(1)から(3)については、ほぼ全てそれ自体が不法行為になるもので、パワーハラスメントとなるかどうかで判断が難しい場面はもともと少ないのですが、(4)から(6)までについては、業務上の適正な指導との線引きが必ずしも容易でない場合があると考えられるとされています。
そして(4)から(6)の行為については、業種や企業文化の影響を受け、また、具体的な判断については、行為が行われた状況や行為が継続的であるかどうかによっても左右される部分もあると考えられるため、各企業・職場で認識をそろえ、その範囲を明確にする取り組みを行うことが望ましいと報告されています。

ここで特筆すべきは、(5)の過小な要求がパワーハラスメントになりうることが明確化されている点です。
具体的には、勤続33年の管理職であった男性に対して、それまで20代前半の女性の契約社員が担当していた総務課の受付に配転した行為が、男性を退職に追い込むための不法行為であるとして慰謝料を認めた裁判事例がこれにあたると思われます。
このような行為はこれまでパワーハラスメントであると明確に定義付けされていなかったのですが、このように定義付けられることにより従業員側の意識も高まることが想定され、今後の配転にあたってはより慎重な配慮が要求されることになるでしょう。

今回の報告書の例では、このような場合がパワーハラスメントにあたりうると概念や例を限定せず、むしろひろげる方向で定義付けされているため、この報告書がただちに企業側にとって有益とは言い難いというのが正直な感想です。
しかし、今回の概念規定により議論が活発化し、パワーハラスメントとなりうる行為が一般に広く浸透することは長い目でみればパワーハラスメントの発生を抑制するばかりでなく、企業としてパワーハラスメントへの取り組みを行う基盤の形成に役立つと思います。