<ポイント>
◆譲渡担保権は担保の滅失による損害保険金請求権にも及ぶ
◆担保目的物に保険がかけられているかどうかに注意
企業が売掛金の回収を確実にするための方法や、金融機関が貸付金の回収を確実にするための方法として、取引先企業の在庫商品をまとめて一つの集合物ととらえ、この集合物に譲渡担保権を設定する契約(集合物譲渡担保契約)が結ばれることがあります。
このような集合物譲渡担保契約の活用は最近も注目されており、重量や体積を計ることにより倉庫内の在庫商品の在庫量を把握することができる倉庫を2012年度をめどに全国展開することを決めた会社も現れています。
集合物譲渡担保契約においては、在庫商品が壊れたり、売却されたりするなどして契約上定められた在庫量を下回ったことが発覚した場合、売掛金を有する企業や貸付金を有する金融機関は、担保価値を維持するために契約の定めに基づいて取引先企業に対して在庫商品の補充を求めることが通常できますが、在庫商品が壊れたりしたことで取引先企業が損害保険金請求権を取得した場合、その損害保険金請求権に対して譲渡担保権に基づく差押えをすることは可能でしょうか。
この点について、昨年(2010年)12月2日、最高裁が判断を示しました。問題となった事案は要約すると以下のとおりです。
養殖業者であるA社は金融機関から融資を受け、養殖施設内で養殖していた養殖魚に譲渡担保権が設定されました。
その後、赤潮により養殖施設内の養殖魚が死滅したため、A社は、漁業共済組合に対し共済金請求権を取得しましたが、新たな融資を受けることができなかったため養殖業を廃止しました。
金融機関が貸付金を回収するためにこの共済金請求権への差押えを申し立てたところ、A社は差押えは許されないと主張して争いました。
この事案について最高裁は、集合物(この事案では養殖魚)の滅失を填補するための損害保険金請求権への差押えは可能であるが、譲渡担保権を設定した企業(この事案ではA社)が通常の営業を継続している場合に損害保険金請求権を差し押さえるには、「損害保険金請求権に対して直ちに譲渡担保権を実行できる」旨の合意があるなどの特別の事情がなければならないと判示しました。
最高裁がいう通常の営業を継続している場合とは曖昧な表現ですが、取引先企業に契約違反や期限の利益喪失事由が見あたらず、債権者への支払いが滞っていない場合を指すと考えられます。
期限の利益喪失事由とは、一定の事由が取引先企業に生じたら直ちに担保権を実行できるというものであり、譲渡担保契約を結ぶ際、通常取り決められるものです。
結局この事案では、A社は養殖業を廃止していたため、最高裁は、金融機関による損害保険金請求権請求権への差押えを認めました。
なお、この判例は、譲渡担保の目的物が集合物のケースについてのものですが、譲渡担保の目的物が特定の動産であるケース、例えば特定の機械設備・装置が故障などしたことにより機械保険に基づいて企業が損害保険金請求権を取得したケースについても同じことがいえると思われます。
在庫商品や機械装置を目的物として譲渡担保契約を結ぶ際には、目的物に損害保険金がかけられているかどうかについても注意を払うことをお勧めします。