動産等担保融資…事業のプロセス全体を担保に融資を受ける
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企業が在庫品などを担保として金融機関から融資を受ける事例がふえてきています。ABL(Asset Based Lending)あるいは動産(等)担保融資といわれる融資手法です。旧来的な融資では、不動産を中心とする個別の資産の価値や保証人の信用を担保としますが、ABLでは事業のプロセス全体を担保とする点に特徴があります。
「動産担保融資」という表現もされていますが、実際にはABLでは動産(在庫商品や機械設備など)だけでなく、売掛金債権やそれが入金される預金口座などにまとめて担保を設定するケースが通常です。

例えば、ABLによりメーカーが融資を受ける場合であれば、事業のプロセス(仕入→製造→販売→回収)のなかで生じる次の各資産につき、金融機関のための担保をまとめて設定します。
(1) 原材料や機械設備
(2) 原材料や機械設備を用いて製造された商品
(3) 商品を販売して生じた売掛金債権
(4) 売掛金を回収して増加する預金

(1)原材料・機械設備、(2)商品については、保管場所と品物の種類を特定して、その範囲の動産につきまとめて担保権を設定します。担保設定範囲として特定された保管場所にある該当する種類の品物であればまとめて担保の対象となります。それ以上に1つの1つの品物を特定することは要求されません。(3)売掛金についても、個々の取引内容や取引先(売掛金の支払義務者)を特定することなく一定範囲でまとめて担保を設定します。
また、どの範囲で担保権が設定されているのかが第三者にも分かるようにするため登記をします。これにより金融機関は第三者との関係でも担保権の存在を主張できます。
これらは2005年(平成17年)10月施行の法改正により可能になった制度です。これにより、日々の業務のなかで担保の対象が入れ替わってもいちいち担保設定手続をやり直す必要がなく、借入を受ける企業の事業活動を阻害せずに金融機関のための包括的な担保権を設定することができるようになりました。
(4)預金口座にも担保権を設定します。融資後に預金残高が増減しても改めて担保設定の手続をやりなおす必要がないようにしておきます。

このように、ABLは、事業プロセスのなかで登場する資産にまとめて担保権を設定し、担保の対象が日々増減したり入れ替わったりしても手続をやり直す必要がない制度が前提になっています。近時ABLの事例が増えてきているのは、こうした制度を導入する上記の法改正がなされたことがきっかけの1つです。
また、ABLの普及の要因としては、こうした法改正のほか、動産類を担保として評価するノウハウ、これらを前提にした金融機関の審査体制が確立されてきたことも指摘されています。
動産類の担保価値を評価してその結果を金融機関に提供することを事業内容とするベンチャー企業も現れています。

ABLでは、事業のプロセス全体を担保とすることを実現するために、融資を受けた後も企業が守らなければならない約束事(コビナンツ)が種々取り決められます。この点もABLの特徴の1つです。
例えば、融資を受けた企業は、担保が設定された在庫商品や売掛金の詳細な内訳を定期的に金融機関に報告しなければいけません。在庫品や売掛金の状況は、これらを担保として融資を行った金融機関にとって重要な関心事だからです。こうした報告を正確に行うための前提として、融資を受けた企業には、在庫・売掛金などをきちんと管理する体制を維持することが要求されます。
また、預金口座に担保を設定してもその口座に売掛金がきちんと入金されなければ担保として意味がありませんから、融資を受けた企業は担保を設定した特定の口座で売掛金を回収することが要求されます。

以上のような仕組みによって、担保を設定するだけの不動産をもたない企業であっても、事業プロセスそのものを担保に融資を受ける途が開かれます。