<ポイント>
◆動産売買先取特権は動産の売掛金の保全手段の一つ
◆当事者間の合意がなくても動産の売買によって発生するのが特徴
◆動産売買先取特権の実行には一定のハードルがある
動産売買において売主の売掛金を保全する手段の一つに、動産売買先取特権があります。本稿では動産売買先取特権に基づく物上代位について、A→B→Cの順に商品が売買されていく商流を念頭に置いて解説します。
動産売買の先取特権とは、動産を売却した者が、その動産の代金と利息について、その売却した動産から、他の債権者に優先して弁済を受けることができる法定の権利のことです。特に売主と買主との間で何の合意をしていなくても発生するのが特徴です。先の例で説明すると、AがBに商品を売却し引渡したにも関わらず、Bが代金を支払わない場合、Aは商品を差押えて競売することができます。そして、Aは、競売代金から配当を受けて、売掛金の回収にあてることができます。ただし、動産が、既にBからCに売却されてしまっている場合、その動産を差し押さえることはできないので、次に説明する物上代位を利用する必要があります。
動産売買先取特権は、その動産そのものではなく、動産の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができるとされています。これを物上代位といいます。例えば、商品がA→B→Cと順次売却され、引渡しもされた場合、BはCに対して動産を売却したことで、売買代金債権を有しています。Aは、このBのCに対する売買代金債権を差し押さえることができるのです。
このように動産売買先取特権は売掛金保全のための有力な手段になりえますが、その実行にあたっては一定のハードルがあることには注意が必要です。
例えば、物上代位に基づく債権差押えにあたっては、
1 ある商品XがABで売買がなされた事実
2 ある商品XがBC間で転売がなされた事実(転売の事実)
3 1項の商品Xと2項の商品Xとが同一であること(商品の同一性)
をそれぞれ証明する必要があります
説明だと簡単なように思われるかもしれませんが、いざ証明するとなると様々な作業や書類が必要になります。転売の事実を証明するためにはBC間の取引に関する書類が証拠として必要ですが、AがBC間の取引に関する書類を保有していることは稀なので、Cの協力がなければ証拠を揃えきれないことも多いでしょう。また、Cの協力を得られても商品の同一性を証明しきれるとは限りません。
以上のように困難は伴うものの証明に成功して動産売買先取特権に基づく物上代位が可能な場合もあります。証明が容易な例を一つ挙げると、それは商品がAからCに直送される場合です。このような場合、AはBC間の取引に基づいてBの依頼で商品をCに直送している以上、転売の事実は容易に証明できます。また、商品をAからCに直送しているので、商品の同一性についても問題になりません。
動産売買先取特権の物上代位に基づく債権差押を念頭において契約時に準備しておけば、物上代位の実行が容易になるケースもありますので、ぜひご相談下さい。