<ポイント>
◆自賠責保険会社に対して直接請求できる
◆加害者加入の任意保険会社に対しても直接請求できることがある
◆加害者のみを被告とするのか任意保険会社も被告に加えるのか見極める
自動車を運転していたところ他の自動車がぶつかってきて、または、道を歩いていたところ自動車がぶつかってきて、負傷したとします。このとき被害者は、自動車を運転していた加害者に対してはもちろん、加害者の加入する自賠責保険会社に対しても損害賠償額を支払うよう直接請求できます。被害者保護の観点から法律で認められています。
ところが、加害者の加入する任意保険会社に対しては、法律上当然に直接請求できるわけではありません。もともと任意保険は、自動車運転中に他人に怪我などを負わせて損害賠償責任を負うリスクに備えることを目的とした、(誤解を恐れずにいえば加害者のための)民間の金融商品だからです。
とはいえ実際には、一定の条件のもとで被害者が加害者加入の任意保険会社に対して直接請求できる権利が、保険約款で定められています。被害者、加害者、任意保険会社のそれぞれにとってメリットがあるからです。
被害者や加害者のメリットは想像しやすいと思います。被害者の保護になることは明らかですし、加害者にとっても、損害賠償責任を負うことによる損失がてん補されることになります。
任意保険会社のメリットとしては、被害者から直接請求を受けうる立場にあるので保険会社も交通事故の「当事者」といえ、加害者に代わって被害者との示談を代行しても、非弁行為にあたらないことが挙げられます(非弁行為とは、弁護士でない者が報酬を得る目的で法律事件の代理などをすることです。弁護士法72条で禁じられています。)。
なお、高橋弁護士執筆の「弁護士費用は保険で支払う」でも任意保険会社による示談代行サービスが認められた経緯が説明されていますのでご参照下さい。
ただし上述したとおり、もともと任意保険は、加害のリスクに備えた(加害者のための)民間の金融商品ですので、自賠責保険会社に対する直接請求と異なり、被害者が加害者加入の任意保険会社に直接請求するためには、一定の条件を満たす必要があります。いくつかありますが典型的な条件は、加害者と被害者との間で賠償額について判決が確定することです。
通常は、加害者に対する勝訴判決が確定すれば、その加害者が加入する任意保険会社は被害者に対して支払ってくれます。しかし、任意保険会社が、免責事由(加害者(自社の契約者)に保険金を支払えない事由)があると考えているときには、加害者に対する勝訴判決が下されたとしても、保険会社は被害者に支払いません。このようなときには、加害者だけでなく保険会社も被告に加えて、直接請求できる旨を定めた約款を根拠に「加害者に対する判決が確定することを条件として○○○円を支払え」という判決を求める意味があります(保険会社にとっても、免責事由があると考える場合にはその旨を主張し、被害者・加害者間の紛争とともに一体的解決を図る道が開けます。)。
ほかにも、被害者が加害者加入の任意保険会社に直接請求できるための条件として、「加害者の生死不明」が挙げられます。実際に加害者の生死が不明であった時、確実に任意保険会社から支払いを受けられるよう、その加害者と任意保険会社を相手に同時に訴訟提起したことがあります。この訴訟では、「加害者が生死不明であるので直接請求される立場にあることを争わない」意向であることを保険会社に確認し、その保険会社と裁判上の和解を直接したこともあります。
参考になれば幸いです。