<ポイント>
◆全戸一括で導入するには様々な総会決議が必要
◆全戸一括で導入後、各戸は一律に利用代金の支払義務を負う
従来分譲マンションの区分所有者がインターネットサービスの提供を受ける際、各戸ごとに個別に事業者とインターネット接続回線契約やプロバイダ契約を結んでいました。
ところがインターネットサービスの需要が高まるにつれて、近年では新築時からインターネット接続環境が整備された分譲マンションが現れ、各区分所有者が個別に契約を結ばずに済むことが増えてきました。 このようなマンションでは通常、管理組合が全戸一括で事業者と契約する方式をとっています。各区分所有者はプロバイダを自由に選べませんが、安く利用できるメリットがあります。
既存の分譲マンションにおいて新たにインターネット接続環境を整備する際も、近年では、各戸が個別に契約する方式だけでなく、管理組合が全戸一括で事業者と契約する方式もとれるようになってきました。
国土交通省が作成した「インターネットアクセスの円滑化に向けた共同住宅情報化標準」 の第2.5及び「既存共同住宅のインターネット接続環境の整備に係る合意形成マニュアル」 に詳しいですが、ここでは管理組合の総会で必要な手続きを説明します。
インターネット接続環境を整備するための工事の多くは、共用部分の形状を変えるものではないでしょうし(例えば既存のパイプスペースに光ファイバーを通すなど)、形状を変えるとしても著しいとはいえないでしょうから、通常は「共用部分の管理に関する事項」として普通決議で足りると考えられます。
もっとも、例外的に、工事が共用部分の形状または効用のいずれかを著しく変えるものであれば、「共用部分等の変更」にあたり、特別決議が必要です。
マンション標準管理規約では、普通決議は議決権の半数以上を有する区分所有者が出席し、出席者の議決権の過半数で決するとされており、特別決議は区分所有者かつ議決権の4分の3以上の多数決によるとされています。
また、利用予定のない区分所有者からもインターネット利用料金を徴収するためには管理規約の改正が必要となります。管理規約所定の「管理費の使途」を追加・変更しなければならないか、同じく所定の管理費・修繕積立金とは別途徴収しなければならないからです。管理規約の改正には前述のような特別決議が必要です。
なお、管理組合が管理規約に基づいて、ある区分所有者にインターネット利用料金などを支払うよう求めて訴えを起こしたところ、その区分所有者が、自分はインターネットを利用していないので料金の支払義務は負わないと主張して争った事件があります。広島地方裁判所で平成24年11月14日に判決が下されました。
この判決で、広島地方裁判所は、インターネット設備そのものは共用部分であるから、その保守・管理費用は区分所有者が一律に負担すべきものであると判示しました。そのうえで全戸に一律にインターネットサービスを提供するために結ばれたインターネット接続回線契約などに基づいて発生する費用について、利用の有無にかかわらず一律に徴収することにしても、その規約部分は無効とはいえない、ひいては利用していなくても料金の支払義務を管理組合に対して負うと判断しています。
その理由としてインターネットサービスが全戸に一律に提供されることはマンションの資産価値を増加させるといえること、利用の有無によって個別に料金を定めたのでは、各戸の利用状況を確認し、インターネット設備の保守・管理費用と接続そのものに必要な費用を分けて各戸が負担すべき費用を計算しなければならないが、そのためにコストをかかってしまうことなどを挙げています。