<ポイント>
◆出産後1年に満たない労働者への解雇は原則無効
◆労働者に事前の注意・指導がなかったことも問題
◆特に出産前後の時期の解雇は慎重に
今回は、出産後1年を経過していない労働者に対する解雇が雇用機会均等法9条4項に反するとして無効とされた東京高裁の判例(2021年3月4日)をご紹介します。
雇用機会均等法9条3項では、「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと等を理由に、解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」旨定めています。
また、同法9条4項では、「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は、原則無効とし、事業主が、当該解雇が妊娠、出産等を理由とする解雇でないことを証明したときは、この限りでない」としています。
一審原告(以下、原告と言います。)は認可保育所を運営する法人に雇用されていましたが、出産により産休・育休を取得し、復職しようとしたところ、法人が復職を拒み、原告の求めに応じ解雇理由書を交付しました。
解雇理由書を交付した時期が出産後1年に満たなかったことから、法人の行為が均等法9条4項に違反し無効であるとして、原告が訴訟を提起しました。
裁判所は、法人の原告に対する一連の行為は解雇であると認定したうえで、解雇の効力について判断しました。
法人は、これまでに10名以上の保育士が産休・育休を取得しほぼ全員が復職するなどしていることなどから、たまたま本件の解雇時期が出産日から1年を経過しておらずこれにより均等法9条4項違反とされることは法人にとって酷であると主張しました。
しかし、裁判所は、本件解雇は、客観的合理的理由を欠き、社会通念上相当であると認めることもできず、権利の濫用として無効であること、法人が均等法9条4項の「妊娠出産等を理由とする解雇でないことを証明した」とはいえず、法人の行った解雇は均等法9条4項に違反するといえ、この点においても、本件解雇は無効であると判断しました。
それに伴い、法人に対し、原告が解雇されたことにより就労できなかった期間の賃金の支払義務を命じ、かつ、慰謝料30万円の支払いを命じました。
なお、法人は、原告が園長に対して不適切な言動を繰り返したこと等が法人の就業規則に定める解雇事由に該当する、とも主張しています。
この点、裁判所は、原告が最終的に決まった保育方針等に従う姿勢を示さなかったとは認められないこと、一部適切でないと評価しうる部分がないとはいえないとしても、園長や上司が必要に応じて注意、指導をしていくことが考えられるとして、原告が質問や意見を出したことや保育観が違うということをもって、解雇に相当する問題行動であると評価することは困難であるとしました。
本件の経緯を見ていると、もともと法人は原告の言動について問題視していたのではないかとも思われるのですが、特段の注意・指導や懲戒処分も行わないままに、産休・育休のタイミングで復職を拒み解雇したというのは、やはり問題であると考えます。
本件については、出産後1年を経過していたとしても、解雇事由があったとは認められない事案だと思われますが、より判断の難しい限界的な事案についても、妊娠中や出産後1年以内の解雇は特に避けるべきであると思います。