<ポイント>
◆相続登記、住所等の変更登記の申請が義務化
◆相続の場合に被相続人の所有不動産の名寄せが可能に
1 はじめに
平成29年の国土交通省の調査によると所有者不明土地(不動産登記簿により直ちに所有者の判明しない土地、所有者は判明するがその所在が不明で連絡がつかない土地)の原因の66%は「相続登記の未了」にあり、34%は「住所変更登記の未了」にあるとのことです。相続登記が未了となる原因は、相続登記の申請が義務ではないこと、相続によりねずみ算式に相続人が増加するケースが多いこと、地方を中心に土地の権利意識が低下したこと等にあると考えられています。これら登記の未了を予防すべく不動産登記法が改正(以下「本改正」といいます)されました。
2 相続登記の義務化
本改正により、不動産の所有権を相続または遺贈(相続に対する遺贈に限る。以下、同様)によって取得した者は、自己のために相続があったことを知り、かつ、不動産の所有権を取得したことを知った日から3年以内に、所有権移転登記を申請しなければならないとされました。
また、かかる登記がされた後に遺産分割が行われた場合には、その遺産分割によって所有権を取得した者も、遺産分割の日から3年以内に所有権移転登記を申請しなければならないこととなりました。
これらの義務に正当な理由なく違反した場合には10万円以下の過料に処せられます。
また、これらの改正には遡及効があり、本改正の施行前に相続、遺贈、上記の遺産分割によって所有権を取得した者も同様の義務を負うので、登記が未了の場合には注意を要します。
3 相続人申告登記
上記のとおり相続登記の申請が義務化されましたが、その申請手続きは煩雑です。例えば、法定相続登記の申請であれば、被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本や申請者が相続人であることを示す戸籍謄本などが必要です。申請が義務化されたにも関わらず申請手続きが煩雑なままでは制度として問題があります。
そこで、相続または遺贈により所有権移転登記の申請義務を負う者は、登記官に対して、不動産の所有権の登記名義人に相続が開始したこと、自らがその登記名義人の相続人であることを申し出ることができ、その申出により上記の申請義務が履行されたものとみなされることとなりました。申出の際の必要書類は申出人が法定相続人の一人であることを示す戸籍謄本であり、登記申請よりも簡略化されています。この申出があった場合、登記官は、申出があったこと、申出をした者の氏名及び住所、その他法務省令で定める事項を職権で登記に付記することができます(相続人申告登記)。
ただし、相続人申告登記はあくまで登記に上記の事項を付記する制度であり、所有権移転登記が完了したわけでないことには注意を要します。そのため、例えば相続した不動産を譲渡する場合等には、相続人申告登記だけでは足りず、所有権移転登記が必要です。
4 住所等の変更登記の義務化
本改正により、不動産の所有権の登記名義人の氏名(法人の場合は名称)または住所について変更があった場合、その所有権の登記名義人は、それらの変更があった日から2年以内に変更登記を申請しなければならないこととなりました。相続登記の義務化と同様、遡及効も存在します。
5 登記官による変更登記
以上は国民に義務を課すことで登記情報の更新を促そうとする試みですが、本改正では登記官が職権によって登記の変更に必要な情報を収集し、その情報に基づき登記を変更することができるようになりました。登記名義人が自然人の場合には住民基本台帳ネットワークシステムを、法人の場合には法人・商業登記システムを利用して更新を行うことが想定されています。
6 所有不動産記録証明制度の新設
不動産登記は不動産単位で記録されているため、旧法下ではある特定の人物が名義人となっている不動産を網羅的に検索することはできませんでした。そのため、例えば、相続の際に被相続人が所有する不動産が判然としないといった問題が生じていました。
かかる問題を解消するため、本改正では自らが所有権の登記名義人として記録されている不動産、相続等の一般承継における被承継人に係る所有不動産の一覧を法務局に証明書として発行してもらうことができる制度(所有不動産記録証明制度)が新設されました。実際の運用については現時点では明確ではありませんが、相続等の際の有力な財産調査方法の一つになるといえそうです。