再度の民法大改正!物権法等について(第7回)~相続国庫土地帰属法について~
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<ポイント>
◆相続等により取得した土地を一定の要件のもと国庫に帰属させることが可能に
◆法務大臣の承認処分(行政処分)と負担金等の納付が必要

これまでは、土地所有権の放棄を含む土地所有権を手放すための制度等は存在せず、このようなことが可能かどうかははっきりしていませんでした。
しかし、土地を利用したいというニーズの低下等により、土地を相続したものの、土地を手放したいと考える人が増加していることや、相続をきっかけとして土地を望まず取得した所有者の負担感が増していて、管理が不十分になることが増えていることなどから、新しく相続土地国庫帰属法が制定されて、一定の要件を満たしているものについて相続等により取得した土地所有権を国庫に帰属させる制度ができました。
とはいえ、土地の所有に伴う責任や管理コストを国が負うことによる国民の負担の増大や、無条件に土地所有権を手放すことを認めれば土地の管理についてのモラルハザードを誘発する危険があることから、これらを抑止することも必要です。
そのため、新法は、承認のための申請そのものが認められない土地や、申請は認められても土地の状況次第では承認が認められない土地を定めています。
1 相続土地国庫帰属制度の内容
(1)法務大臣の行政処分(承認処分)
制度利用について申請があり、特に不承認とすべき事由がなければ、法務大臣が「承認処分」を行い、その効果として土地所有権を国庫に帰属させる仕組みとしています。つまり、この承認処分に法務大臣の裁量は認められておらず、申請に係る土地が法の定める不承認事由に該当しない場合は、承認をしなければなりません。
なお、承認申請が申請の権限を有しない者の申請によるとき、承認申請が不可能な土地について申請があったとき、承認申請者が一定事項を記載した申請書や添付書類を出さないとき、手数料を納付しないとき、承認申請者が正当な理由がないのに調査に応じないときはその申請は却下されます。
(2)所有権の国庫帰属
法務大臣の承認処分により土地所有権が国に帰属することとなるのですが、法律的にみると、国が土地所有者から土地の所有権を承継することになります。
つまり、承認申請をした者が無権利者であれば国庫帰属の効果は生じません。
また、承認処分を受けた土地について、未登記の担保権等があった場合、一般の不動産譲渡のときと同様、未登記者は、民法177条の「第三者」に該当する「国」に対して自らの権利を主張(対抗)できないとされています。
承認申請者は承認があったときは負担金を納付しなければなりませんが、この負担金が納付された時にその土地の所有権が国に移転します。
(3)申請者の損害賠償責任等
法務大臣は、承認申請者が偽りその他不正の手段により承認を受けたことが判明したときは、承認を取り消すことができます。
また、法の定める国庫帰属の対象にならない土地であったことによって、国に損害が生じた場合、その事実を知りながら告げずに承認を受けた者は、国に対してその損害を賠償する責任を負います。

2 国庫帰属の要件
申請主体は相続等で土地を取得した者(土地の所有権の全部または一部を相続等により取得した者)です。
国庫帰属が認められる土地については、一定の類型を除外するといういわゆるネガティブリスト方式が定められています。その概要は以下のとおりです。
承認申請自体が認められない土地としては、建物がある土地、担保権や使用収益権(借地権等)が設定されている土地、通路等他人による使用が予定される土地として政令で定めるもの、土壌汚染のある土地、境界不明確地や所有権の帰属・範囲に争いがある土地です。
土地の状況次第では承認が認められない土地としては、通常の管理に過分の費用・労力を要する崖(勾配、高さ等で政令に定める基準に該当するもの)のある土地、通常の管理・処分の妨げになる車両や工作物等のある土地、除去しなければ通常の管理・処分ができない地下埋設物等がある土地などや、通常の管理・処分のために隣地所有者等との争訟が必要な土地などです。
承認申請者は承認申請の審査に係る手数料を納付する必要があります。それに加えて、国庫帰属する土地に関して生ずる管理及び処分に要する費用の一部負担をする負担金の納付が必要です。法により「国有地の種目ごとにその管理に要する十年分の標準的な費用の額を考慮して政令で定める」額の負担金の納付が必要とされています。
具体的には政令の定めを待つことになりますが、法務省民事局長が国会において、原野であれば20万円、200平方メートル程度の市街地にある宅地であれば80万円程度という目安を示しているので参考になると思います。
土地を国庫に帰属させるための要件がかなり厳格であり、負担金も低額ではないため、どの程度この制度の利用があるかは未知数ではありますが、土地所有制度のあり方に一石を投じる新制度といえると思います。