<ポイント>
◆被相続人死亡後の各場面で統一的な相続財産管理制度の創設がされた
◆相続人不分明、限定承認の場合、相続財産管理人が相続財産清算人に変更
◆放棄者の財産管理継続義務が変更されて、義務の内容が限定的に
前回、遺産分割の見直しについて解説しましたが、本稿では新たな相続財産管理制度について解説します。
被相続人が死亡した後、相続人は相続人となったことを覚知した時から原則として3ヶ月以内(熟慮期間)に単純承認、限定承認及び相続放棄をし、その後の手続き(遺産分割等)を経て最終的に相続財産の帰属が決まります。
改正民法では、これらの各場面で適用される統一的な相続財産管理制度を創設し、家庭裁判所は、利害関係人等の請求により、いつでも相続財産管理人の選任その他の相続財産の保存に必要な処分を命ずることができることとしました。
従来は熟慮期間中、限定承認や相続放棄後の場面を限定した相続財産管理の規定しかなく、単純承認後遺産分割終了までの財産管理人に関する規定が存在しないことは、かねてより立法の不備といわれていました。
改正民法により、単独相続の場合の単純承認や遺産分割が完了して相続財産の帰属が決まるまで、相続財産管理制度に関して同じ規定が適用されることになりました。
また、相続人がいることが明らかでない(相続人不分明)場合にもこの規定は適用されますが、後述の相続財産の清算人が選任された時は適用されなくなります。
この統一的制度の条文の文言自体は従来と類似のものですが、改正前はその置かれた場所から承認または放棄・熟慮期間経過までに適用されるとされていたのが、改正後にはその場所が移動して上記のとおり統一的に適用されることとなりました。
改正法による相続財産管理人を選任するためには必要性がなくてはならないことは改正前の相続財産管理人と同じで、相続人が保存行為をしないことにより相続財産の物理的状態や経済的価値を維持することが困難と認められる場合が該当すると思われます。
具体的には今後の運用により明らかになってくるものと思われますが、相続人が相続財産の管理をしようとしない場合、相続人の一部が所在不明の場合などが考えられます。
改正法による相続財産管理人の権限、義務、職務等については不在者財産管理人に関する規定が準用されます。
そのため、保存行為及び利用改良行為ができるほか、裁判所の許可を得て、処分行為をすることもできます。
ただ、具体的な場面で相続財産管理人ができる行為は必ずしも明確ではなく、たとえば相続財産の売却、債務の弁済、訴えの提起等の訴訟行為が問題となります。これらは、その具体的事情に従って判断されることになると思われますが、相続財産の保存に必要かどうかが判断基準の一つと考えられます。
相続人不分明、限定承認がされた場合、改正前の相続財産の「管理人」に代わって「清算人」が選任されることになりました。
相続人不分明の場合の相続財産清算人の権限等については、限定承認の規定が準用されています(ただし、先買権(2020年7月1日の拙稿「限定承認手続きについて」 https://www.eiko.gr.jp/lawcat/sozoku/参照)は除外)。相続人不分明の場合のみ、財産目録の調整を含む不在者財産管理人の規定も準用されていますが、限定承認手続きにおいても同目録調整は規定されています。これらについては改正前の各場合の「相続財産管理人」と同じです。
相続人は、相続の承認、放棄までの間、その固有財産におけるのと同一の注意をもって相続財産を管理しなければなりませんでした。これは改正後も同じです。
相続放棄をした場合、改正前は、放棄によって相続人となった者が相続財産の管理を始めることのできるまで、上記と同じ相続財産の管理を継続する義務がありました。
しかし、この規定では、具体的にどういう場合に義務を負うのか明らかではありませんでした。そこで、改正法は、放棄者が義務を負うのは、放棄のときに相続財産を現に占有しているときに限りました。
また、放棄者は、相続財産の「管理」を継続せずに、上記の場合に「保存」する義務を負うことになりました。保存義務の内容としては、積極的な義務ではなく、財産を滅失させたり、損傷するような行為をしてはならないにとどまるものとされています。
この義務は、相続人または上記の相続人不分明の場合の相続財産の清算人に財産を引き渡すまで負います。なお、相続人が引き渡しを拒絶した場合には供託することも可能です。