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◆相続開始から10年経過後は「特別受益」「寄与分」の主張はできなくなった
◆遺産分割調停・審判、遺産分割禁止の合意・審判に期間制限が設けられた
改正民法では、相続制度も見直しがされています。大きく分けると、相続財産の管理、相続財産の清算、遺産分割について見直しがなされています。
相続財産の管理・清算については紙面の都合上割愛させていただき、本稿では、遺産分割の見直しについて説明します。遺産分割については大枠として3点の改正がなされています。
一点目は、「特別受益」「寄与分」を主張することに期間制限が設けられたことです。
改正前民法では、相続開始時(被相続人の死亡時)から長期間経過した場合であっても、「特別受益」や「寄与分」の規定の適用が制限されることはありませんでした。
「特別受益」は、相続人の中に、被相続人から遺贈や生前贈与などの特別の利益を受けた者がいるときには、相続人間の公平を図るために相続分算定の際にこれを考慮するものです。
「寄与分」は、相続人の中に、相続財産の維持・増加に特別の寄与をした者がいるときには、相続人間の公平を図るために相続分算定の際にこれを考慮するものです。
すなわち遺産分割では、相続人の一人が、他の相続人に「特別受益」がある、または自らに「寄与分」があると主張し、民法で定められた相続割合(法定相続分)とは異なる割合で具体的相続分を定めるよう求める場面があります。
しかし改正民法では、長期間経過後に遺産分割がおこなわれるときは法定相続分による分割がなされることへの期待を保護するため、また、早期の遺産分割を促すため、相続開始時から10年経過した後におこなわれる遺産分割については、一定の例外を除いて「特別受益」や「寄与分」の規定が適用されないこととなりました。
一定の例外とは、(1)相続開始時から10年経過する前に相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときや、(2)10年の期間の満了前6か月以内の間に遺産分割を請求できないやむを得ない事由が相続人にあった場合において、その事由が消滅した時から6カ月が経過する前にその相続人が家庭裁判所に遺産分割請求をしたときです。ただ、やむを得ない事由については、例外を広く認めれば上記の制限をする意味が薄れることから、容易には認められないと思われます。
また、上記の期間制限は改正民法の施行日前に開始した相続にも適用されます。その場合には、相続開始の時から10年を経過する時又は施行の時から5年を経過する時のどちらか遅い時より後に行われる遺産分割が対象となります。
二点目は、遺産分割調停・審判の取下げに期間制限が設けられたことです。
改正前民法では、申立人は遺産分割調停を自由に取り下げることができ、審判手続についても相手方が本案について書面を提出するまでは取り下げることができました。
しかし改正民法では、遺産分割調停・審判を、相続開始時から10年経過した後に
取り下げるためには、相手方の同意が必要とされることとなりました。
上述したとおり相続開始時から10年経過した後は基本的には「特別受益」「寄与分」の主張が制限されるので、このような主張をしようとしていた他の相続人の利益を守るためです。
三点目は、遺産分割禁止の合意・審判について期間制限が設けられたことです。
一般に相続人の間で一定の期間を定めて遺産分割を禁止する合意ができますが、改正前民法ではその禁止期間の上限について明文規定がありませんでした。また、特別の事由があれば家庭裁判所は期間を定めて遺産分割を禁止できる旨、定められていましたが、この禁止期間の上限についても明文規定がありませんでした。
しかし上述したとおり基本的には相続開始時から10年経過後は「特別受益」「寄与分」の主張ができない旨の改正をすることに伴い、改正民法では、
・相続人間で、5年以内の期間を定めて遺産分割を禁止する旨の合意ができる
・当該禁止期間は5年以内でさらに更新できる
・禁止期間の終期が相続開始時から10年を超えてはならない
と定められました。
また、家庭裁判所の審判においても同様の規制がされることとなりました。