再度の民法大改正!物権法等について(第2回)~所在等不明共有者の持分について~
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2021年10月01日
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◆所在等不明共有者のいる共有持分について変更・管理の裁判制度、持分取得制度や譲渡権限付与制度が新設

土地などの不動産やその他の物につき、共有ではあるが自分以外の共有者が誰か不明である、あるいは、共有者が誰かはわかっていてもどこに住んでいるのかが不明である場合(このような共有者を「所在等不明共有者」といいます。ここでいう「不明」につき、具体的な定義は定められていませんが、その不明共有者が自然人である場合は、不動産登記簿や戸籍・住民票などを調べて現地調査をしても共有者がどこの誰であるかわからない場合をいうと考えられます)、その所在等不明共有者とコミュニケーションができないので、その不動産やその他の共有物に関して処分や有効活用ができないなどの問題があります。また、共有物を分割する訴訟手続はありましたが、共有者自体が誰なのか不明である場合は、その手続が使えないという問題もありました。そこで、令和3年改正民法では新しい制度がいくつかできました。

たとえば、不動産に限らず共有物を変更したいが所在等不明共有者がいる場合、他の共有者の同意を得て、共有物に変更を加える旨の裁判を請求できるようになりました(共有物に管理者が選任されている場合もほぼ同様。なお、所在等不明共有者の持分を失わせる行為は不可)。また、変更にまでは至らない管理については、所在等不明共有者を除いた共有者の持分の過半数で管理を決められる旨の裁判を求められるようになりました。これらの変更、管理の許可決定の裁判手続は、裁判所に決定の申立てをした後、裁判所が申立てがあったこと、1ヶ月以上の期間定めてその期間内に異議の届出をすること、その届出がないときは許可決定の裁判をすることを公告し、異議の届出がなければ許可決定をすることになります。

これ以外にも、不動産に関して、所在等不明共有者の共有持分について、その持分の取得制度や譲渡権限付与制度が新設されました。

所在等不明共有者の持分取得制度とは、不動産につき、自分以外の他の共有者が誰なのか、あるいは、他の共有者はどこにいるのか不明なとき、裁判所に共有者が申し立てることにより、その所在等不明共有者の持分を申立共有者に取得させる裁判をしてもらえる制度です。これは通常の共有以外に相続により共有となっている場合(遺産共有)も使えます。ただ、遺産共有の場合、相続開始から10年経過していないとこの制度は使えません。
裁判所が所在等不明共有者の持分を他の共有者が取得する決定をする場合、その所在等不明共有者のために供託金を供託する必要があります。その供託金の額は裁判所が定めます。その際、一応時価を基準とはしますが(不動産鑑定士の評価や固定資産税評価額などが活用されると思われます)、必ずしも厳密に時価と一致するわけではありません。もし、供託金額が時価よりも低い場合、その差額を所在等不明共有者から請求される可能性はあります。
この持分取得制度について、適切に共有物分割請求訴訟を利用したいと考える共有者が一部でもおり、裁判所へ持分取得制度の利用について異議が出れば、裁判所は持分取得の決定をすることはできません。また、遺産共有の場合に、遺産分割請求が家庭裁判所になされ、持分取得制度の利用について異議が出ている場合も同様です。これらの場合には、それぞれの手続の中で適切に処理すべきであるという考えが前提にあります。
申し立てた共有者が複数いる場合に持分取得決定がされるときは、各申立共有者の持分の割合で按分して所在等不明共有者の持分を取得します。

以上の持分取得制度以外に、所在等不明共有者の不動産の持分を他の共有者の全持分と一緒に他へ譲渡するための制度もできました(持分譲渡権限付与制度)。供託金が必要であるなど基本的なところは持分取得制度と同じですが、裁判所へ申し立てた共有者に所在等不明共有者の持分の譲渡権限を与える決定をするという制度です。この制度は、所在等不明共有者以外の共有者のうち一部でも反対の者がいれば使えません。そして、決定が効力を生じた後2ヵ月以内にその権限を行使して共有者全員の持分を譲渡する必要があります(長期にわたり譲渡がされない事態を防ぐため)が、例外的にその期間を延長できる制度もあります。

持分取得制度と譲渡権限付与制度の手続には共通するところが多いです。申し立てがあれば、裁判所は、一定事項を公告し(最低3か月間。所在等不明共有者に異議の機会を与えるため)、登記上氏名等が判明している共有者に同様の事項を通知し、裁判所が定めた供託金が供託されれば、持分取得決定や持分譲渡権限付与決定がなされます。