<ポイント>
◆匿名を希望するときでも社外窓口(弁護士)に顕名で通報することが望ましい
◆通報者探しや嫌がらせが行われたときはその事実をすぐに内部通報すること
◆内部通報によって問題が解決したあと、職場環境を悪化させてはならない
Q7 「社外窓口(弁護士)に顕名、会社には匿名」という通報の方法が好ましいようですが、会社に匿名、つまり会社関係者に通報者が誰か知れないようにすることは本当に可能ですか。
A 100%とは言えません。しかし、完全な匿名通報であってもその点は同じです。上記方法にはそれ以上のメリットがあります。
上記方法であれ完全な匿名通報であれ、その後の事実調査の過程で、周辺の社員らには何らかの調査が行われているという気配は伝わります。そして、不心得者は誰かが内部通報したのではないかと詮索を始め、通報者が誰かについての噂や邪推も広がります。これらの点は上記方法であっても完全な匿名通報であっても同じです。
上記方法のメリットは、社外窓口(弁護士)には通報者がわかっているわけですから、事務局と協議して、その人が周囲から目を付けられるような調査方法はとらないようにします。
また、調査の方針や経過を(差し支えのない範囲内で)社外窓口(弁護士)から通報者に連絡し、同時に通報者から現場の状況や意見を聞きながら調査を進めます。どうしても通報者に影響が及ぶ可能性のある方法を選択せざるを得ないときは通報者の同意を得てから行います。
さらに、上記のような不心得者がいる場合は、その情報を得て、その者に対し適切な対応をとります。
社外窓口(弁護士)にも事務局にも通報者が誰かわからないときは、このような配慮をしようと思ってもできないのです。
Q8 「会社には匿名で」として社外窓口(弁護士)に通報したところ、その弁護士から、「社内の内部通報事務局にだけ、あなたの名前や連絡先を教えてもいいですか」との質問を受けました。どう考えたらよいでしょうか。
A 内部通報事務局(通常窓口と同じ)が信用できないという事情がなければ、事務局と直接コミュニケーションをとれるパイプを作っておくことはお互いにメリットがあります。
事務局は、内部通報に基づく事実調査や通報者に対するフィードバック、事後のモニタリング等に関し司令塔の役割をもっています。そのため事務局と通報者との間のコミュニケーションは欠かせません。「会社には匿名」の通報に関しては、それを社外窓口(弁護士)が仲介するのですが、直接のパイプがあればより便利です。通報者にとってもそれが不都合ではなく、むしろ好都合という場合もあります。そこで、上記のような提案が出てくるのです。
仮に事務局が通報者の名前を把握したとしても、通報者の匿名希望を無視する行動をとることはありません。つまり、事務局から問題部署の他の社員や管理職またはそれ以外の部署の社員にその名前等を明かすことはありません。このことを内部通報規則等で明示している場合もあり、また個別に約束する場合もあります。
通報者がそれでも事務局と直接コンタクトすることをよしとしない場合は、次善の策として、通報者が特定できないメールアドレスを事務局に教え、そのメールによって事務局と直接コミュニケーションをはかるというのも一案です。
いずれにしても、社外窓口(弁護士)は通報者の同意がないのに事務局に通報者の名前やメールアドレスを教えることはありません。通報者の意思に沿った方法を取り、またアドバイスします。
Q9 内部通報に基づき事実調査が始まったと思われるころ、部署内で「通報者探し(犯人さがし)」が始まりました。どうすればよいでしょうか。
A すぐに内部通報窓口(社外・社内を問いません)にそのことを通報してください。
内部通報規則などでは「通報者探し」をすることを禁じているはずです。その意味ではそれを行っている者は職務規定に違反していることになります。
情報を得た内部通報事務局では、その部署の管理職に、部下のそのような行為を直ちに止めさせるように要請します。直属の管理職がそれに荷担している場合などは上位の管理職または人事部担当者等を通じて、同様の行動をとるものと思われます。
Q10 通報者であるとの推量にもとづいて、部署内で嫌がらせやいじめ的行動が目立ってきました。どうすればいいですか。
A 前述したことと同じで、すぐに内部通報窓口(社外・社内を問いません)にそのことを通報してください。
加えて、単に嫌がらせ、いじめというのではなく、それに類する具体的事実を日々記録したうえ、通報窓口に情報提供してください。
会社が具体的事実を把握し、それが不当なものと判断したときは放置することはしないはずです。もし、放置したり、会社ぐるみで荷担することがあれば、前に述べた「オリンパス事件」のように、厳しい法律的、社会的糾弾を受けることになります。また、社外窓口の弁護士が関与した場合は、その立場と権限においても会社に対し強く対処を促します。
Q11 内部通報したことによって問題が解決しましたが、それ以来職場の雰囲気が悪くなり、私も平常心で仕事ができなくなりました。どうすればいいですか。
A そうだとすれば、その責任は直属の上司を含む管理職にあります。そういうことのないように目配りし、部下を指導・監督するのが管理職の任務であり、必要な資質だからです。
できれば、直属の上司またはその上の上司(部長など)に相談してください。通報者の主観的事情が強い場合は、直接その問題に触れずに、転勤または担当職務の変更希望を出すというやり方もあるかもしれません。人事部などに相談する方法もあるかもしれません。
望ましいのは、従前の管理職が以後十分な目配りをして職場雰囲気の改革を取り組むことですが、それが困難なときは、管理職を更迭(配置転換)するという形で是正がはかられることもあります。
但し、この問題はそれぞれの会社の人事政策とも関係するので、内部通報事務局がフォローできる問題ではなく、また、会社の規模や組織によっても一律に論じることは適当でありません。
Q12 完全な匿名通報をしたのですが、その後内部通報事務局と直接コミュニケーションをとりたいと思うようになりました。どうすればいいですか。
A たしかに、追加情報を提供したいとか、逆に調査の状況を知りたいとかの動機で、そういう気持になることがあります。
そのときは、社外窓口(弁護士)、社内窓口を問いませんので、その旨通報窓口に告げてください。
社内窓口(内部通報事務局)に顕名で、という方法のほか、社外窓口(弁護士)に顕名、会社には匿名(を維持)という方法も可能です。