急激な景気の悪化を受けて、採用内定の取消しが社会問題となっています。
厚生労働省が調べた今年(2009年)3月卒業の大学生等の採用内定の取消件数は、去年12月19日現在で155社・632名でした。11月25日では75社・302名であったのに、1か月も経たないうちに、数字が倍増したそうです。
厚生労働省は内定取消しへの対策として悪質な企業名を公表することを決め、今年1月19日付けで改正職業安定法施行規則に基づく企業名公表制度を施行しました。
公表の基準は(1)2年連続して内定取消しを行った、(2)同一年度に10人以上の内定を取り消した、(3)事業規模の縮小を余儀なくされていると明らかに認められない、(4)取消理由について学生に十分な説明をしていない、(5)内定を取り消した学生に対し就職支援を十分に行っていない の5項目です。このうち一つでも該当する場合に公表することになっています。
そして厚生労働省は3月31日、内定取消しを行った2つの企業名を初めて公表し、今後も悪質な事案については引き続き公表するとのことです。
では内定取消しの法律関係はどのようになっており、どのような場合に内定取消しが許されるのでしょうか。
去年(2008年)3月1日に施行された「労働契約法」によれば、労働契約は「労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」(第6条)となっています。
よって、会社が採用内定通知を出し、それに対応して内定者が誓約書を提出した時点で合意が認められ、労働契約が成立していると考えられます。
このように労働契約が成立している場合の内定取消しは、労働契約法上の解雇にあたります。
したがって、労働契約法16条により、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、内定取消しは無効となります。
例えば、内定時に分かっていた事情(例えば、会ったときの印象が暗いなどの事情)では、客観的に合理的な理由を欠きますので、このような事情で内定を取り消すことができないのは当然のことです。
現在最も問題となっている経営不振による内定取消しについては、通常の経営不振の場合の人員削減手段としても、整理解雇の場合に準じて考えることになります。
つまり、(1)人員削減を行う経営上の必要があること、(2)十分な解雇回避努力を行ったこと、(3)人選の基準とその適用の合理性、(4)手続きの相当性などを総合的に考慮して、内定取消しが適法であったかどうかが判断されます。
(1)の経営上の必要については、内定の取消しをしないと会社が倒産するというところまで経営が悪化している必要はありませんが、少なくとも内定時には予想しえない業績の悪化があったことは必要です。
(2)の回避努力については、残業削減や、賞与の支給削減、希望退職の募集、また内定辞退者の募集などにより、できるだけ内定取消しを避けるために努力したことが必要です。
ただし、(3)の人選の基準とその適用の合理性については、恣意的であってはならないのは当然ですが、元々の従業員の雇用の維持が内定者の雇用よりも優先される場面が多いと思われます。
また(4)の手続きについては、内定者についてはできるかぎり速やかに通知し、十分な説明を行うこと、また、他の就職先を探すなど誠意を尽くすということも入ると思われます。
また旧労働省の通達(新規学校卒業者の採用に関する指針・平成5年6月24日付け第134号)によって、やむをえず内定取消しを行う場合、以下のことが定められています。
内定取消しの通知が就業開始予定日の30日前の日より後である場合には解雇予告手当を支払わなければなりません。
また同通達によれば、内定取消しについて公共職業安定所に通知を行い、その指導を尊重することとなっています。
さらに、同じく、内定取消しとなった学生の就業先の確保について最大限の努力を行うとともに、補償の要求があった場合には誠意をもって対応することとなっています。
内定の取消しが違法であった場合には、従業員としての地位があることを確認し、雇用義務が発生することは当然ですが、これに代えてあるいはこれに加えて、内定取消しにより被った損害について賠償請求される可能性があることに注意が必要です。