以前にも法案の概略をご紹介しましたが、公益通報者保護法が本年4月1日から施行されます。
この法律によって保護されるのは、企業の従業員・派遣労働者、下請企業の従業員、公務員などです。刑法などの法令に違反する行為を告発した場合の、解雇の無効、降格や減給などの禁止、派遣契約解除の無効などのルールが設けられました。
これは、労働者等が企業との関係では弱い立場にあることから、違法行為の告発により地位が脅かされないよう保証することにより、企業内のコンプライアンシーを強化し、国民の生命・安全を守ろうというものです。しかし、これに違反して告発者を解雇・降格等した企業に対する罰則は定められていません。告発先は勤務先企業、行政機関、マスコミや消費者団体などですが、告発した労働者が保護される要件は告発先によって異なります。
例えば、勤務先企業に対する告発の場合には、「不正等が生じ、または、まさに生じようと思われる場合」で足り、関係行政機関に対する告発の場合には、「不正等が生じ、または、まさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」とされ、要件がやや厳格になっています。そして、マスコミに対する告発者が保護されるためには、「勤務先企業に告発すると証拠隠滅の恐れがある」「生命・身体・財産に危害が発生する」等の条件を満たすことが必要であり、最も厳格なものとなっています。
そして、この法律の施行に先立ち、昨年7月19日に「公益通報者保護法に関する民間事業者向けガイドライン」が定められました。
これは、公益通報者保護法を踏まえて、事業者のコンプライアンス経営への取り組みを強化するために、労働者からの法令違反等に関する通報を事業者内において適切に処理するための指針を示すものです。
ガイドラインの主な内容は、以下のとおりです。
(1)事業者は、社内での通報処理の仕組みを整備し、その内容を労働者等に対し十分に周知することが必要である。
(2)通報の受付方法は、通報者の秘密を守るものであることが必要であり、通報を受領した場合は、その旨を通知することが望ましく、受付したあとは、調査の必要性の有無について公正、公平かつ誠実に検討し、今後の対応について、通報者に通知するよう努めることが必要である。
(3)調査の実施においては、通報者が特定されないよう配慮することが必要である。
(4)調査の結果法令違反等が明らかになった場合は、速やかに是正措置及び再発防止策を講じるとともに、必要に応じ、関係者の社内処分など適切に対応することが必要であり、さらに必要があれば、関係行政機関への報告等を行うことが必要である。
(5)是正措置完了後、関係者のプライバシー等に配慮しつつ、速やかに通報者に対し、是正措置を通知するよう努めることが必要である。
(6)公益通報をしたことを理由として、通報者に対し、解雇・不利益取扱い(懲戒処分、降格、減給等)をしてはならない。
(7)事業者は通報処理終了後、法令違反等が再発していないか、是正措置及び再発防止策が十分に機能しているかを確認する等、新たな是正措置及び再発防止策を講ずる等フォローアップを行うことが必要である。
(8)通報処理の仕組みやコンプライアンス(法令遵守)の重要性について、社内通達や、定期的な研修や説明会の実施等により、労働者、管理者に対し、十分に周知することが必要である。
(9)職場の管理者等に相談や通報が行われた場合に、適正に処理されるような透明性の高い職場環境を形成することが重要である。
公益通報者保護法の内容のみでは事業者には罰則等はなく、極端に言えば通報者に対し不利益取扱いさえしなければよいのか、という疑念さえ抱かせる内容でしたが、施行に先立ち、事業者に具体的な行動指針(ガイドライン)を示すことによって、公益通報者保護制度を企業経営の透明性のために活用していこうという方針が明らかになりました。
このガイドラインが定められたことにより、公益通報者保護制度の設置は、コンプライアンスに対するこれからの企業の姿勢を示すものとして強く要求されていると言えます。
公益通報者保護法が本年4月から施行されます
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