自治体などが発注したし尿・汚泥処理施設工事を巡り入札談合がなされたとの疑いで、公正取引委員会は4月25日と26日、独占禁止法違反(不当な取引制限)容疑でプラントメーカー11社の捜索差押に入りました。いわゆる家宅捜索です。
この点について新聞では「今年1月の独禁法改正で付与された強制調査権に基づくもの」、「初の強制調査」などの報道がされています。何が「初」なのでしょうか。
従来も談合、カルテルなどの独禁法違反の疑いがもたれる事案について、公取委が立入検査などで独自に調査することがありました。事件関係者の任意の協力のもと行う調査のほか、一定限度で強制的な処分も認められていました。つまり、公取委が事件について必要な調査をするためには、関係者に出頭を命じて審訊(しんじん)したり、帳簿書類などの提出を命じたり、立入検査したりするなどの権限が認められていました。これらの処分に従わない場合は20万円以下の罰金が課されることとなっていました。名宛人の意思を問わない直接強制ではなく、罰則でもって処分に従わせるという意味で間接強制と呼ばれています。
もっとも、これらは犯罪捜査のためではないことがわざわざ定められていました。あくまで行政調査のためであり、警察や検察などが行う捜査、つまり刑事裁判のための証拠収集活動ではないとされていたのです。
この制度は改正後も残っています。
しかし、間接強制だと必要な資料が収集できないのではないか、公取委が資料収集をした後、検察に告発するのであれば、それは捜査の準備段階的な意味合いがあるのではないか、そうすると、裁判所の事前のチェックなしに実質的な捜査を甘受しなければならないのは憲法に違反するのではないか、などの疑問がありました。
そこで、今年1月の独禁法改正により、公取委の職員が私的独占又は不当な取引制限違反などの罪に関連する事件を調査する必要があるときは、裁判官が事前に発布する許可状を得て、捜索差押えなどの強制手続きを取ることができるようになりました。これを「犯則調査権限の導入」と呼びます。
強制手続きというのは嫌疑がかかる者などの意思を無視してもできるという意味です。テレビでよく東京地検特捜部が捜索差押令状を示したうえで、職員が隊列を為して会社に入っていく様子や段ボールを抱えて会社から出て行く様子が放送されますが、法的に見ればあれと同じ権限が公取委にも認められたということです。国税庁や証券取引等監視委員会に認められる犯則調査権限(国税庁の場合、映画「マルサの女」で有名です。)にほぼ対応しています。ちなみに、被疑者の逮捕権限まで認められるものではありません。
このような改正は、課徴金の引き上げなどと共に、談合、カルテルなどの独禁法違反事件をなくすための強力な武器を公取委に与えるものです。