入学辞退者の入学金・授業料返還訴訟について
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【入学辞退者の入学金・授業料返還訴訟について】
今年(平成15年)の7月16日に、京都地裁が、この種の一連の訴訟の中ではじめての判決を出しました。
これまでは、合格者が入学を辞退した場合にも、私立大学は、合格者からいったん受け取った入学金や授業料等を一切返還していませんでした。
このような取り扱いは各私立学校の学則で定められています。
これらの学則の内容は、入学手続要項等で予め受験生に明示されており、入学を辞退しても一切返金はしないという学則の内容を知って受験し、そのうえで入学金や授業料等を支払っているにもかかわらず、合格者が返金を請求できるのか、が争点となりました。

【京都地裁の判決内容】
今回の京都地裁の判決は、以下のような結論を出しました。
入学の時期である4月1日以降に入学を辞退した者については、授業料等についてのみ返還請求を認めて入学金については返還請求を認めませんでした。
そして、4月1日より前に入学を辞退した者については授業料等についてはもちろん、入学金についても返還請求を認めました。
つまり、これに反する学則は、無効である、と判断したのです。

【今回の判決の位置づけ】
文部科学省は、昨年5月、入学金を除く授業料などの学納金について「合格発表後、短期間内に納入させるような取り扱いは避けること」とする指導を各大学に通知し、同6月から学校側に返還を求める提訴が相次ぐようになったのを受けて、多くの私大が今年度入試からは授業料などの返還に応じるようになりました。
しかし、入学金についての取り扱いはほとんど変わっていませんでした。
今回の判決は、文部科学省指導内容よりも踏み込み、入学金についても学校側が返還すべき場合を明らかにしました。
18歳人口の減少に伴って経営が年々厳しくなっていくと言われている私大ですが、この判決によって、さらなる経営戦略を迫られることになります。

【今回の判決の法的構成】
今回の判決は、消費者契約法を適用して、学則の一部無効を結論づけました。
消費者契約法とは、急増する消費者契約に関するトラブルの円滑な解決を目的に平成13年4月1日に施行された法律です。
消費者が契約を取り消せる権利を民法よりも拡大したのが特徴で、消費者が事業者と結ぶ全ての契約が適用対象となります。
この法律では、契約解除の際の違約金徴収についても、「事業者に生じる平均的な損害」の額を超える分についての徴収を禁止しています(同法9条1号)。
私大側は、消費者契約法は大学には適用されないと主張しましたが、今回の判決は、その主張を認めませんでした。
そして、大学に入学する契約を締結した者が、入学以前あるいは入学式までにその契約を解約することは、大学に経済的な不利益を与える可能性があることから、入学金や授業料等を返還しない旨の学則は、解除に伴う損害賠償額の予定であると認定しました。
そのうえで、入学辞退によって大学側が被る「平均的な損害」について、大学側は複数回の入学試験において入学辞退者の数によって合格者数を調整して対応することが可能であることや、補欠募集の可能性があること、学生数が減ることにより必要な事務経費等が減額すると考えられること、などの事情があるにもかかわらず、大学側が「平均的損害の額」を立証していない、として、入学金・授業料等を返還しないとする学則を無効としました。
ただし、学生としての身分を取得する4月1日以降に入学辞退を申し出た合格者については、いったん学生としての身分を取得した以上、学校側は入学金に対する契約上の義務を履行したと指摘し、入学金の返還は認めませんでした。