10月30日、東京地裁は、元若ノ鵬が日本相撲協会に対して行った地位保全の仮処分申請を却下しました。
元若ノ鵬は大麻を所持していたとして逮捕され、そのことが理由で同協会から解雇されたのですが、その協会の処分が厳しすぎ、裁量権の濫用であるとして、仮処分申請を行ったのです。
地位保全の仮処分申請とは、解雇等によって労働者としての地位を失ったとされる者が、本来の裁判等による解決を待っていては時間がかかりすぎ回復しがたい損害が発生するであろう場合に、簡易迅速な手続きによって労働者としての地位があることを仮に認めてもらうために行う手続きです。
今回の件では、元若ノ鵬は、在留資格が相撲の興行であるため、相撲取りとしての資格がなくなることに伴い在留期間の満了時である11月中旬にも強制退去となる可能性があるということで、早急に仮の地位を認めてもらう必要があるとして申立てを行ったものです。
しかし、冒頭に記載したように、東京地裁は仮の地位を認めませんでした。
裁判所の判断は「力士は相撲道の実践者という側面があり、若ノ鵬の大麻所持は重大な非違行為であることから、解雇処分は重すぎることはなく、解雇権の濫用にはならない」との内容だったようです。
解雇権の濫用とは、本来、従業員を解雇するかどうかについては原則として使用者側の裁量にゆだねられているが、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができないという場合には解雇権の濫用として解雇の意思表示は無効になるという考え方であり、現在は労働契約法に規定されています。
今回の件では、大麻所持自体は起訴猶予となったこともあり、処分が重すぎるのではないか、という点が問題となったようですが、私も裁判所の判断に賛成です。
相撲に直接関係がない、相撲の現場で行われたものではないにしても、ファンがあってこその興行であることを考えると、今回のような相撲に対するイメージの低下を伴う違法行為に対し毅然とした態度をとらないことは団体としてのモラルが問われると思うからです。
特に薬物汚染は社会的にも重大な問題であり、社会的に注目を集める職業に就いている人は特に自覚が求められてしかるべきだと考えることもその理由です。
裁判所は、この却下決定によって元若ノ鵬の在留資格がなくなることは当然知ったうえで、このような判断をしたと考えられ、だとするとかなり自信があっての判断だと考えられます。
なぜなら、この決定によって彼が日本にいられなくなるということは日本の裁判で争うこともかなり難しくなるため、もし結論が疑わしいのであれば仮の地位を認めておいてあとはじっくり本来の裁判で争ってください、という道を残すであろうからです。
ただし、この決定は理由を「相撲道」に求めているため、例えば一般事務の人が大麻を所持した場合にまでこの決定の理論がただちに当てはまるわけではなく、ケースごとに慎重な判断が必要です。