信託法の改正

改正信託法が12月15日に公布され、公布から1年6カ月以内に施行されることになりました。旧信託法は1922年に制定されたわずか75条のシンプルな法律でしたが、改正信託法は罰則も含めると271条に及ぶ法律となりました。信託は英米法ではよく使われる形態の法律行為ですが、日本では信託銀行の業務や証券会社の投資信託等以外ではあまり馴染みのないものでした。
今回の信託法改正によって広く資金調達が可能になる等のコメントをする人もあるようですが、今回は改正信託法についてベーシックなところから報告します。

旧信託法では、信託とは権利を移転等させる法律行為の一種でした。不動産について信託契約をする場合、信託する者(委託者といいます)が信託を受ける者(受託者といいます)に対してその不動産の所有権を譲渡することになります。不動産登記簿謄本にも信託を原因とする所有権移転登記がされます。ただし、同じ権利を移転させる法律行為である売買契約と異なるのは、売買契約では所有権者となった者は自分の不動産を自由に使用したり、処分したりすることができますが、信託によって所有権者になった者は信託内容によって不動産を管理しなければならないことです。もちろん信託の対象物には不動産に限らず、動産や債権等も含まれます。そして、信託財産は受託者自身の財産と分けて管理され、受託者の債権者は信託財産に対して権利行使をすることはできません。つまり、たとえば受託者に貸金を有する債権者は、受託者に信託された財産を処分させて貸金の回収をすることはできないのです。

改正信託法では、従来の権利を移転等させる信託に加えて、自己の所有物のままで信託する信託宣言という方法が認められました。この場合、委託者が受託者を兼ねるということになり、信託されていない所有物(通常の所有権の対象物)と信託されている所有物(受託者としての所有権の対象物)を所有するということになり、両者は分けて管理されることとなります。ただ、第三者から見れば、ともに受託者の所有物のままですから見分けがつきにくく、特に委託者の債権者からすれば、いつの間にか債権回収の対象から外されているということになりかねません。そこで、信託宣言による場合には、原則として信託財産についても債権回収の対象とし、受益者(信託の利益を享受する者。後述する例で言えば「孫」のこと)の利益を不当に害する場合には対象から外すということになりました。受益者の利益を不当に害する場合とは、受益者としての指定を受けたことを知った時又は受益権を譲り受けた時に受益者が債権者を害することを知らなかった場合です。

また、旧信託法では信託には契約による場合と遺言による場合の2種類がありました。遺言による場合とは、たとえば、祖父が幼い孫に財産を譲りたいときに、自分の死後、信用できる受託者に財産を信託して、幼い孫に財産から得られる収益を与えてもらうという場合です。この場合、遺言書には財産を受託者に信託し、そこから得られる利益を受益者に与えるよう記載することになります。
改正信託法では、上記の信託宣言ができるようになったので、信託が設定される形式としては、契約、遺言と信託宣言ということになりました。信託契約は当事者間の合意、遺言による信託はそのことを記載した遺言書の作成、信託宣言は公正証書等の書面やコンピュターによるデータ(法令に従った一定の様式を備えることが必要になります)の作成により設定できます。

改正信託法は、その他にも受託者を監督する信託監督人制度の新設など活用を促進するための多くの制度を設けており、折にふれて紹介したいと思います。